16.《ネタバレ》 私は鼻がいいので「匂い」というキーワードが刺さりました。
上辺は繕えても匂いはごまかせない。特に身体に染みついた匂いは。
そんな「匂い」と「上流」「下流」の物理的&心理的な高低差。
上流に入り込んで飯のタネにしようとしただけの半地下の家族は、さらに下の地下の住人により、束の間の優越感も安息感も打ち砕かれます。
もっと別の機会に知り合ったら、貧しいもの同士が結束できたのか、パラサイト仲間になれたのか。
ここでは、ただただお互いに墜ちるところまで墜ちていくだけなのが残酷でした。
豪雨で水没している町、半地下の家の中での便器から噴き出す汚水の描写は耐え難く思わず鼻と口を手で覆いました。
そこで蓋の上に座り、天井裏から煙草を取り出して吸う妹。
諦観のような達観のような表情。印象的なシーンでした。
彼女は、半地下の人生から早々に脱出してしまいます。
それが自分で望んだかどうかは別として。
半地下家族の絆は強く、無職でも甲斐性無でも父親の尊厳は保たれています。
それ故に精神的に追い詰められていく父親は、地下住人の強烈な匂いに顔を背けたパク氏を衝動的に刺します。
それまで、下流の町が水没したことすら知らず呑気にパーティをしたり、既に表情を無くしてる父親にインディアンの格好をさせたりするあたりから、不穏な雰囲気を醸し出していました。
無表情に見えて感情を押し殺して爆発寸前なのがわかるソン・ガンホ。巧いです。
父はこの下はもう無い地下の住人になり、息子は多分達成不可能と思われる計画を立てる。前半のコミカルな展開から怒涛のようにシリアス展開、そして虚無感が漂うラスト。ただ、あの強い母はきっと逞しく生きていくと思います。
見ごたえはあったのですが、今後トラウマで立ち直れないかもしれない上流家庭の幼い息子を思うと胸が痛みます。
上流家族に実質的な罪は無いので気の毒です。鈍感・無神経・無意識の罪の代償が大きすぎます。
後味悪いのが悪いのではないけど、たくさん死人を出さずに済ませる描き方もあったのではないかと思いました。