13.《ネタバレ》 鹿鳴館で社交ダンスを踊る婦人のドレスの裾とクロスカットされる、雪の中を歩く女工らの足。
そこから続く峠越えシーンのロングショットが『アギーレ 神の怒り』にも引けをとらないほど圧巻のスケールである。
撮影スケジュールとしては逆なのだろうが、ラストの秋の峠もまたヒロインを労わるような情緒があり素晴らしい。
工場内の再現も本格的であり、工場群のミニチュアのショットも精巧に手掛けられている。
さらに感心するのが、女優達の手作業を捉える横移動のショットである。糸をとる作業の様子は非常に高度な技能を要するものであることが
わかるが、これを多くの女優らがそれぞれ実演するのをバストショットで丁寧に披露していく。
女工になりきった女優たちの真剣な表情、佇まい、本格的な手捌きが非常に美しい。
現在なら、本職の方が作業する手元のショットと、女優の表情のショットを別撮りするしかないだろう。
そうした作り手の心意気の滲むこの横移動ショットは、ラストの舞踊と再びクロスカットされてさらに情感を煽る。
一方では心中のエピソードの直後に祭りの明るいシーンが入れたりと、ウェット一辺倒な作劇は回避しようとしているのがわかる。
大竹しのぶらがみせる「生き生きとした青春の輝き」(『私の映画人生』山本薩夫)に救われる。