1.本作『河内山宗俊』は、夭折の天才監督、山中貞雄の現存する数少ない作品の一つである。
他の現存する2作品である『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』と『人情紙風船』は鑑賞済み。
したがって、現存する山中貞雄作品はこれで全て見たことになった。
本作『河内山宗俊』は、『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』や『人情紙風船』の2作品と比べると、少し知名度や一般的評価が低い気がする。
そんな中、最後に見たので、それほど期待していなかった。
しかし、なんと、山中貞雄作品の中では、個人的に一番のお気に入りとなった。
かなりの傑作である。
本作のメインキャストとして、河原崎長十郎と中村翫右衛門の二人が出てくる。
この二人は『人情紙風船』や、溝口健二の『宮本武蔵』と『元禄忠臣蔵』でもコンビを組んでいた。
そんな中で、本作における二人は最も魅力的だった。
二人とも最高の俳優である。
まずは河原崎長十郎。
冒頭での将棋シーン。
最初はお茶らけている河原崎長十郎。
しかし、最後に真顔で凄んでみせる。
この時の迫力にゾクゾクした。
そして中村翫右衛門。
相変わらずのひょうひょうとした自然な演技。
素晴らしく魅力的だ。
ラスト近く、口にくわえた爪楊枝を捨て、原節子演じる娘を救うため、立ち上がる。
この時の男意気。
しびれるねぇ・・・
本作には、小津安二郎作品でお馴染みのミューズ、原節子がヒロイン役で出演している。
ちなみに本作は、原節子の最も若い頃を見ることのできる貴重な作品らしい。
小津作品に出まくっている頃の原節子と比べると、当たり前だが大分若く、純情可憐な感じ。
小津作品では比較的大柄に感じられる彼女だが、本作では小さく見えた。
この時、彼女は15歳だったらしいが、二人の男を振り回す魅惑的な少女として、十分に存在感を発揮していた。
先にも書いたが、本作における河原崎長十郎と中村翫右衛門の二人の掛け合いは、絶妙で素晴らしい。
そして全編に渡って「男意気とは何たるか」を堪能できる素晴らしく良くできた傑作である。
山中作品はどれも素晴らしいが、私は特に本作『河内山宗俊』を高く評価したい。
82分という短い尺の中に凝縮された、いつの時代にも共通する「男の生き様の何たるか」を堪能できる作品である。