1.《ネタバレ》 日露戦争の『日本海大海戦』やWW1の『青島要塞爆撃命令』なんかは確かにあるけど、戦後の太平洋戦争をテーマにした東宝特撮戦記映画で“勝ち戦(?)”を描いた唯一の作品です。真珠湾攻撃が含まれる『太平洋の鷲』や『太平洋の嵐』もありますが、どっちもボロ負けするまで描いていますからねえ。 有名なキスカ島撤退作戦の実話映像化ですけど、登場人物は全員仮名で生存している関係者がまだ多かった時期ですから、致し方ない面もあるでしょう。三船敏郎が演じる大村少将は“ヒゲのショーフクさん”で知られた木村昌福提督のわけで、容貌は似ても似つかないんですがその物に動じない豪傑ぶりは三船にはぴったりのキャラでした。前半で一水戦の長官として阿武隈に着任するシーンで、捧げ銃をして迎える水兵長のカイゼルひげこそが木村昌福が生やしていた髭で、三船と水兵長のやり取りを含めていわば楽屋落ちみたいになっています。その阿武隈や一水戦の駆逐艦群は東宝特撮で使われた艦船プロップでは最大縮尺で作られており(五十分の一ぐらいか)、モノクロ撮影も相まって迫力満点でした。だいたいは史実に沿ったストーリー展開ですが、けっこうフィクションも織り込まれておりそれが映画的にはスリルを盛り上げる効果を上げています。たとえば濃霧の中で補給船と阿武隈が衝突しますが、実際には衝突したのは駆逐艦でした。でも阿武隈が応急修理に一時間かかって「果たしてキスカ島突入に間に合うか?」というサスペンスを生むわけで、史実を上手く改変した脚本だと思います。エキストラを含めて女性がまったく登場しない、漢くさいお話しでもあります。 チャーチル曰く「撤退戦だけじゃ戦争に勝てない」のも真理ですけど、もぬけの殻になったキスカ島に上陸した米軍が同士討ちで三百人余りの死者・行方不明を出して、「史上最大の最も実戦的な上陸演習」と公式戦記にまで皮肉られているの知るとやはり痛快でしょう。しかしですね、アッツ島では全員玉砕、キスカ島では全員撤退、この差はなんなんでしょうかね。それは、アッツには海軍兵がほとんどいなかったけどキスカの守備隊のうち半分は海軍だった(この映画では全員海軍みたいな描き方ですけど)、という事情を言っちゃうと身も蓋もなくなっちゃうんですけどね。