1.成瀬監督の演出に精彩を欠くといった印象もあるんですが、何より、この題材は素晴らしい。昔ながらの封建的ともいえる掟に従い頑なに守ってきた地主が、戦後の農地改革によって変貌していく、いかざろう得ない。
家長の葛藤、対する各人の意思を尊重すべし子供達との対立がスクリーンから静かに感じられる。脚本・原作がとても素晴らしい。成瀬独特の<背景⇒人⇒台詞>の流れるカットは狭い日本家屋において絶大なる効果を発揮するが、広い民家が舞台ではどうか。
そのせいか、かなり淡々と演出が続く。
それでも、家長である中村鴈治郎の頑固ぶりにはじめは「敵・反体制」のようなイメージを持ってしまうが、次第に、まさに「鰯雲」のような寂しさのようなものを植えつけさせられた(ワイドカラーでの鰯雲はとても素晴らしい)。
そもそも、あまり自分から動かして作るといった印象のない成瀬監督の演出を考えると、やはり巧いんだなあと思った。
この情感は、これまでの成瀬作品では表現でき得なかった物だと思う。