1.《ネタバレ》 林芙美子には『うず潮』という小説がありますが、これはその映画化ではありません。この年(昭和39年)に放送していたNHKの連続テレビ小説『うず潮』の映画化のようです。クレジットに表記されていますし、田中澄江は朝ドラの脚本を書いています。おそらくテレビドラマの台本をアレンジして、映画に仕立てたのでしょう。この頃すでにテレビの影響力が強かったことを示す例として、興味深いところがあります。
お話の方は、尾道を舞台にしたフミ子の青春編。両親が行商人であることによる偏見、金にルーズな父親など、家庭関係では苦労する姿が描かれています。その一方で、女学校を舞台にした学園ドラマの要素もありますし、恋愛はやや弱めの扱いですが、浜田光夫と山内賢による恋のさや当てはちゃんと用意されています。ひとつひとつのエピソードは短いのですが、内容が盛りだくさんなので満足感はあり、飽きることもなく見られました。ただ、大正時代の物語だということをあまり感じなかったのは、よかったのか悪かったのか。
吉永小百合はさすがに現代物のようにチャキチャキしたところはありませんが、やさしさとガンコさを兼ね備えたフミ子を好演していました。まあこの人が演じると、かなり優等生的になってしまいますが。脇もそれぞれよかったですが、特に沢村貞子の先生がおかしかった。
青春ドラマとしてはなかなか引きつけられるところがあり、ドラマの人気が高くて映画化されたこともうなずけます。続編が作られるほどではなかったようですが。