1.《ネタバレ》 もうすでにスタイリッシュな白と黒のタイトル。飲み屋で次々とサラリーマン小景を展開していくあたりのリズム感。崑です。前社長がパージされ河村黎吉がとりあえずの社長となり(これ『三等重役』と同年の作品)、その秘書になって張り切る主人公の話。そのはしゃぎの中のうつろさみたいなものが描かれ、そうか、戦前の松竹の小市民ものは戦後の東宝のサラリーマンものにつながっているんだ。そういえば、うだつは上がらないがニセ社長として葬式に行く才能だけはあるという役で斎藤達雄が出てた。自室に取締役の机を置いてるの。ブルジョワ令嬢に見初められるためのマラソンでコースを間違え、“水を打ったような”運動場に帰ってくるというギャグもある。ひらサラリーマンはがむしゃらに働くしかない、という苦みが笑いの裏に潜む。島崎雪子にブーッと洟をかませたり、パーマ屋の杉葉子に乱暴に伊藤雄之助を扱わせたりと、美人で笑わせるのが好きな監督だ。このパーマをかけられてしまう学者役でちょっとだけ出た伊藤雄之助、翌年の『プーサン』に通じるものをすでに醸してる。