1.《ネタバレ》 エログロ路線に突入する直前の新東宝映画で、こんな良心的な佳作を製作していた会社があんな風になっちゃうなんて何とも皮肉としか言いようがないです。『しいのみ学園』の清水宏が再び香川京子を起用して撮った作品です。もうこの映画はひたすら香川京子を愛でるのが正しい観かたです。ストイックに生徒の少女たちに愛情を注ぐ先生というキャラは、もう彼女以外には考えられない当たり役です。更生施設で彼女の愛情に守られてきた少女たちが出所するやいなや厳しい家庭環境から悲惨な運命に翻弄される、清水宏の脚本はエミール・ゾラの小説を思わせる冷徹さです。いったん世間に戻ってしまった少女たちの現実にはなんの助けも差し伸べられない無力な存在として香川京子を描く視点は、この映画を単なるヒューマニズム賛歌にすることなく余韻を残してくれます。 まだ辞書に“人権”という言葉が載ってなかったかの様な時代ですから、出所した少女たちに対する家族や世間の偏見がひどいことと言ったら無残なものです。昭和30年代は牧歌的な時代だったという幻想をふりまくのが最近の流行りですが、現実にはこういう残酷な世相の貧しい時代だったというのが正しいところでしょう。