1.PCL移籍後のトーキー第二作目。夫婦喧嘩、隣近所の付き合い、二階住まいの下宿人といった後の作品でもお馴染みのモチーフにユーモラスな味付けがされている。序盤の凧上げシーンのギャグや、襖・引き戸の開閉のアクションだけで施される人物表現など台詞を省いたサイレントスタイルの面白味を残す一方、趣向を凝らしたトーキー演出(舞台俳優という設定を活かした台詞のギャグ・噂話・童謡のBGM・オフ空間の騒音など)も様々に試みられている。宇留木浩の朴訥でとぼけた感じの台詞廻しや、千葉早智子が夫を呼ぶ声のトーンの愛嬌。隣家の亭主役である三代目三遊亭金馬が童謡のレコードに合わせて踊る酔っ払い演技や、その妻役:戸田春子のお喋りっぷりなどそれぞれに愉快だ。ファーストシーンに呼応する同一構図の風景描写の後、勝手口から登場するのが今度は千葉早智子という洒落た結びが冴えている。彼女の台詞「もう少しよ~。」がまた非常に可愛らしい。