15.《ネタバレ》 「出来過ぎてる…。」主人公の台詞の通りコンゲームやサスペンスとして鑑賞すれば、成り立たないほど出来過ぎていますし稚拙なところも多々あったと思います。
しかし、カラスのお父さんがカラスの娘達やカラスの仲間の過去の傷を精算し、その過去に縛られて日陰の中にいる現状から脱却させ、まっとうな未来を彼等に送って貰いたい為に仕組んだ筋書きを、神様が余命いくばくもなく過去の過ちを改心した彼に奇跡として叶えてあげたと見れば(あまあまだが…)、コメディ-タッチのヒューマンホームドラマとして大いに楽しめました。
もし隙のない計画で小狡く詐欺を成功させていたら、カラス達への好意はかなり低くなっていたと思います。詐欺の様なコンゲームとヒューマンドラマを相反するテーマと考えると、前者を稚拙でかなり都合の良い展開にして表現する事で、最後まで主人公達への感情移入もしやすくなったと思います。
入川と河合姉妹が親子だと分かってから物語を振り返ると、みんなで一つ屋根の下で家族のように過ごした日々、チンピラ事務所でまひろが咄嗟に機転を利かせた嘘をホテルで「だってテツさんは父親くらいの歳だから…」などは何とも切なくなってしまいます。
また、最後に人の信用を食い物にする詐欺は最低の行為だ、武沢とは詐欺をしていなかったなどの設定も安っぽいですが、それらを入川に言わせた事で物語としては納得いくものになったと思います。
阿部寛さんの演技力は本当に安定していて上手でしたが、その他のメインの役者さんは場がしらける程に下手ではないにせよ、皆一様に上手くは無いように感じました。
村上ショージさんの抑揚のない台詞回しや、ぎこちない所作は「アジがある」、「へたうま」等のレベルでもないと思いましたが、あの役を彼が演じる事によって作品の価値や物語の説得力が数段上がったと私は思います。お笑い芸人の彼の大ファンであることを差し引いても、彼自身が持っている物事に対する誠実さの様なものが、この映画自体の大きなプラスのウエイトになっていたと思います。
逆の意味で言うと出てきてすぐに「あっ、この人は絶対にいい人ではない!」と思わせるユースケ・サンタマリアさんの彼自身が絶対に持っているであろう不誠実さも分かり易すくて良かったです(ごめんなさい)。
「カラス」ではなく「親指」をテーマにして見ると色々許せてしまう映画でした。