3.《ネタバレ》 漫画の映画化、映画の中の漫画という二つの大きな壁。
前者は、漫画の場面、台詞、設定をそのまま映画で表現してもうまくはいかない。映画は映像の連続で、漫画は絵の連続であるから、根本的な作りが違う。
決め絵の連続や台詞の多用は、映画にとっては過剰になってしまう。その漫画の主題や大切な場面をいかに映像の中で表現するかが重要であると、個人的には思う。
自分が今作で非常に重要だと感じたのは、亜豆という人物。
彼女は真城が苦しむ場面で、必ず出てきて彼を導く。彼女の登場場面では、幻想的な空間が作られる。それは、ライティングの効果であったり、テレビを通した姿であったり、白いカーテンを隔てる事であったり、漫画の中の彼女であったり。彼女は一人の女性というだけではなく、抽象化された希望の象徴であるともとれる。
それらの表現はまさしく映画的であり、主人公達の目的=物語の目的、に大きな推進力を与える。
そこには、ただ漫画を忠実に映画化するだけではない、映像表現の魅力が間違いなくある。
そして今作において、圧巻なのは映画の中の漫画表現。
漫画を描く事を文字通りアクションでみせる。そこでは、音(BGM、ペンの音)が絶妙に絡み合いグルーヴを生みだす事で、今まで見た事がない映像体験が繰り広げられる。
他にも、緊迫感と笑いが同居する連載会議、漫画家だけでないチームとしての漫画制作、漫画愛に溢れるエンディングと見所は尽きない。
漫画、そして映画、どちらにも真摯に向き合う事で、どちらも見事に共存している稀有な作品であると思う。