1.《ネタバレ》 ふんわりとしたタッチの中に偏見や差別、育児放棄といった問題が編み込まれていて、その弱者であるがゆえの脆さが心に痛い映画。
LGBTのカップルと育児放棄された子供の共同生活というと『チョコレートドーナツ』を思い出しますが、この映画では登場人物達は差別や偏見と戦いません。ひたすら耐え忍ぶ、逃避する、やり過ごす・・・当然、勝利する事はありませんし、ゆえに勝利のカタルシスもありません。
途中でトモが台所洗剤で攻撃するシーンに爽快感を覚えたりするものの、それは間違った事として否定されますし、リンコが男性病棟に入れられた事を差別だとして怒るマキオに対しても何の対応もされません。自殺未遂のトランスジェンダーの少年に未来が開ける事もありませんし、最終的に誰かが救われる事もありません。
もっと世界と戦っていいんじゃないか? あまりに被虐的なんじゃないか? とも思うのですが、この中で勝利した事で現実の世界で何かが変わる訳ではありませんからね。カタルシスはそこで完結させちゃうためのものですし。
リンコと母、マキオと姉、その姉、トモと母、少年と母、それぞれの関係を通して、家族だけは理解し、味方になってあげなければならない事が強く示されます。社会や世間がいかに無理解で、牙を剥いてこようとも、家族が理解し、居場所があれば生きてゆける、と。徹底的に父性が排除されている点にどんな意図があるのかはちょっと理解し難く気になりますが。男はマキオや老人ホームの年寄りを見てもただのガキとしての立ち位置しかないような感じ。
残念ながら生田斗真が『予告犯』や『グラスホッパー』や『秘密』の生田斗真その人、リンコというキャラを演じてる人にしか思えなかったのは、私の想像力の欠如が原因かな。でもそういう人の「演技」はそうだよね、っていう感じで、ナマのそういう人の感覚がどうにも薄かった気がするのですよね。
世界が理解を示してくれればいい、けれどそれはあまりに遠い道、ある意味絶望的、ならば理解ある人だけで繋がる世界であっても仕方ない・・・って、それは色々な偏見や差別と同じ地平に繋がっている訳ですね・・・