2.《ネタバレ》 序盤から葬儀のシーンが何度も出てくる。歴史的偉業が達成された陰で多くの者が命を落としたというメッセージでもあると思うけど、一個人から見た「死別」というパーソナルなテーマが根底としてあると思う。かけがえのない娘と何人もの仲間を失ったニール・アームストロングはもちろん、地上での実験で起きた火災で同じく宇宙飛行士を志していた夫を亡くした隣人だとか、死と背中合わせな環境に向かう人間とそんな人間を持つ家族を描こうとした映画と受け止めた。
ニール・アームストロングを演じたライアン・ゴズリング。彼は何を考えているか分からないというか、どんなことを考えていても不自然じゃないような顔をしている。今作に限らず、彼の演技は全くといっていいほど主張をしない。脚本を自分で解釈せずに、台詞をそのまま発音している印象。なので、彼の演技を観るときは自然とその役の心中を想像する。なんなら、彼の演じる役がどういう人物なのかこちらで勝手に決めてしまっていることも多い。あまりに無表情で寡黙な演技だから、あらゆる解釈ができる気がする。これが結構面白い・・・のだが、今作では自分にとって逆効果となったかもしれない。自分の理解力のなさもあるかもしれないけど、ゴスリングの演技がプレーンすぎて、ニール・アームストロングがどういう人物なのかがよく分からなかった。どういう気持ちで観ればいいかと混乱してしまった。
常に命の危険に晒されるのに宇宙に行こうとする彼の原動力は何なのか。理由なんてなくて、単に自分のスキルを活かせる仕事だったから?
娘の死が当然ながら彼に大きな影響を与えているようだけど、二人の息子に対してどこか冷たい気がしたけどそれは何故なのか(正確に言えば、息子たちへの愛情が伝わる描写が少ないのは何故なのか)。
また、妻のことはどう思っているのか。いろいろと疑問が多い。
もちろん、それをこちらで解釈するのが映画の面白さだと思うんだけど、実在した人物と出来事に基づいた作品である以上、もう少し断定的な描写をしてもいい気がする。
ニール・アームストロングとアポロ11号そのものではなく、アームストロングの伝記が原作となっているようなので、それを尊重した結果なのかもしれないけど。
宇宙空間を俯瞰で捉えた映像ではなく、宇宙船内からの視点が多く、船内にいる恐怖を感じられて効果的だった。
手持ちカメラで登場人物をアップで撮った映像がずっと続き、圧迫感がえげつなかった。『セッション』もこんな感じだったな。登場人物たちの心の余裕のなさを演出しているのだろうか。観ていて結構疲れた。そんなこともあって、クライマックスの月面着陸シーンの静寂さに安心してしまい、ちょっとウトウトしてしまった。ここはもう一度ちゃんと観たい。
今作は自分発信での映画ではないようだけど、チャゼル監督の演出は凝っていて好き。個人的に今後のキャリアが最も気になる監督。