1.《ネタバレ》 御詠歌を流す巡礼で始まり、一転渋い一編となる。逃げ回り野に伏す日々。石松が思わず吃らずに嘆いてしまったりする。男泣きの場が多い。「こらえる」ってところがポイントのようで、これにさらに磨きを掛けたのが後の仁侠映画になるのだろう。流れ流れて貧しい小松の七五郎のところに身を寄せる。雰囲気としては二作目の佐太郎の場に似通っているが、意外と女房役の越路吹雪のきっぷの良さがいい。考えてみれば久慈あさみも結構そうだが、非時代劇的なバタくさい顔は、人情濃い女に仕立てやすいのかも知れない。金の工面のために身を売ろうとする話を、彼女のキャラクターが救っている。鬼吉がカタギの両親を泣かせて金を融通する、大政がもとの女房と会う、など過去との接触もあるのが本編の特徴。ヤクザはカタギに迷惑かけちゃあいけねえんだ。若山セツ子のお蝶の死が訪れる。いかにも「幸薄い」キャラクターで、これを観たのが彼女の自殺の後だったためか、より薄幸さが迫ったものだった。次郎長も、しかたなくいやいや人を斬ったことを、おびえてうなされたりする。やはり暗い。