1.《ネタバレ》 20世紀FOX最後のX-MEN。(延期中の「New Mutants」はどの位置づけなのか)
同時にシリーズの最終作。
海外での低評価に加え、興行的にも敗北した本作だが、映画は観てみるまで分からない。
ヒーロー映画として相当ヤバい領域に踏み込んではないかという衝撃を受けた。
監督は同じくダーク・フェニックスを扱った「ファイナル・ディシジョン」からシリーズに携わり続けているサイモン・キンバーグだ。
「ファイナル・ディシジョン」といえば、シンガー版を継承したブレット・ラトナーにより、壮絶なバトル大作へと変貌を遂げた快作だ。対して本作はシンガー版の陰鬱さを更に掘り下げたような暗い作風が特徴である。(両作ともジーンの実家にX-MENが押しかけるシーンがあるが、作風の違いが出て興味深い)
ちなみに監督更新に伴い、音楽のジョン・オットマンは降板。残念ながらアガるテーマ曲&OPはオミットされた。代わりに、ヒーロー映画卒業を宣言のハンス・ジマーが担当している。
作品の方は、監督によればリアルさとダークさを突き詰めたとのこと。思うに狙った着地点には到達できているようだ。
本作には一線を超えてしまった描写が散見され、ガチで恐怖を感じた。
それは悪役が強すぎて怖いとのレベルじゃない。
例えば、ジーンがエリックに殺人について相談するシーン。
「悪役を殺害すること」についてフォローのないヒーロー映画が少なくない中、彼を大量殺人者と明確に言及した点に恐ろしさを感じる。
中盤ニューヨークのシーンもヤバい。
ジーンは葛藤したくないからと、全ての力を吸収させることを選ぶ。責苦から逃れるべく自殺を図る心境など辛すぎる。
またここでのチャールズへの仕打ちは恐怖しかない。
「歩いて来なさいよ」と冷酷に言い放ち、身障者を無理矢理歩かせるなど残酷極まりない。こんな非道な拷問を誰が平然と見れようか。
その痛々しい映像と「お願いだ、やめてくれ」と懇願するマカヴォイの熱演が恐怖と悲しみに拍車をかける。
終盤では、マグニートーが敵を車両ごと潰すという恐ろしい大技まで繰り出してしまう。ふっ飛ばして画面から退場とかではない。
敵は性質上から擬態するため、ハタから見れば一般人であり、その画作りがマグニートーの明確な殺意に凄みを持たせた。
荒唐無稽ながら、その中で描けるリアルさ、ダークさは一線を超えたと言える。怖すぎるのだ。
ノーラン版「バットマン」や「ローガン」など、大人向けな内容を含んだアメコミ映画は確かにある。
問題は、これらはハナから「いつものアメコミ映画じゃないよ」という雰囲気なのに対し、本作はいつものX-MEN映画のツラをしながら、その中に凶暴な演出を内包している点だ。
個人的にはこういう尖った部分は評価するが、やりすぎなのでは?という気持ちもあった。
多くの観客がその陰鬱さににたじろぐのも理解できる。
マンネリを感じさる構成もマイナスか。
ジーン対Vuk、吸収系の能力との闘い。
シリーズ内で思い付くだけで、ショウ対ダーウィン、ビショップ対センチネルがある。
ジーンが自分から回答を示すように工夫されただけ良かったが、新鮮味はない。
エリックについては、またも大事な人を奪われブチ切れパターンである。流石に既視感は禁じ得ないか。
更にはいくつかのエピソードもウヤムヤに解決されてしまい、全体的に歪な印象は否めない。
レイブンとチャールズの確執や、調子乗りチャールズの件はしっかりと解決させて欲しかったところか。
90年代を俯瞰できる強みを活かしきれなかったのも惜しいか。リブート版は「実際の出来事の裏でのミュータントの活躍」が面白い点であったが、前作「アポカリプス」同様にここは残念だ。
(シリーズ内で30年経過してるのに、誰も老けてないのは苦笑だが)
また、最終作なのにシリーズとの連携が疎かになっているのも物足りない。
サイロック、ストライカー、モイラなど、決着をつけるべき部分が沢山放棄されてしまっている。
とはいえ最終的にはシリーズ共通のテーマである「希望」を絡めて無難にまとめ上げられている。これからの未来に希望を持たせられるような余韻のある幕引きだ。
アクションも地味目で数も少ないが力強さはある。各々が能力を発展させて繰り出す奇想天外な見せ場はまさにX-MENの真骨頂。複雑な思惑が絡んだバトルが熱い。エモい。
X-MENを支えてきたキンバーグが演出する本作は、公開後数日で「失敗」と位置づけられ、監督自らが「私の責任」と公言する事態を招いている。確かに残念な点は多いが、ダークな描写のパンチ力は本物である。印象に残ったことは事実だ。