1.《ネタバレ》 モンフェルメイユ――。それはフランスの文豪ビクトル・ユゴーが著した、仏文学史に燦然と輝く名作「レ・ミゼラブル」の舞台となった街。この苦難と悲哀に満ちた小説の世界は今も変わらず、21世紀を迎えた現代も犯罪が多発する危険な街となっている。本作は、そんな貧困と暴力に満ちた街を舞台に、汚職にまみれた悪徳刑事と彼に指導を受けることになった新人刑事とのとある一日を描いたクライム・ドラマだ。何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのだが、これがなかなか見応えのある濃厚な犯罪劇の逸品に仕上がっていた。一言で表すといわばフランス版『トレーニング・デイ』といった趣きの作品なのだが、こちらはどこまでもリアルで生々しく貧困の現実を冷徹に見つめている。物語は、正義感に満ちた若い新人刑事がこの地区へと配属され、初出勤した日の朝から始まる。二人組のベテラン刑事の案内で新しく担当となる街を見て回る新人刑事。だが、そこで目にしたのは予想を遥かに上回る悲惨な現実だった。落書きやゴミにまみれた狭い公共団地で暮らす人々、絶えず勢力争いを繰り広げている犯罪組織や宗教団体、麻薬や暴力と隣り合わせでの生活を余儀なくされている子供たち……。対する警察もまた、自らの保身や利益のためにしか行動せず、社会正義の実現などこれっぽっちも考えていない。その不条理なしわ寄せは、いつの世も最後は社会的弱者へと向けられてゆく。まさに「あぁ無情…」としか言えなくなるような絶望的な現実が繰り広げられる。見ていて痛感させられるのは、この世界はユゴーが生きた200年前と大して変わらないのではないかということだ。そんな中でも最後まで正義を貫こうとする主人公に救われる。また、この監督のストーリーテリングの巧みさや深みのある人物造形などによって最後までぐいぐい引き込む手腕も注目に値する。最後に爆発する、子供たちの暴力の暴走は、そんな貧困の連鎖への圧倒的な怒りの発露なのだろう。この社会は何も変わらないのかもしれないが、それでも行動せざるを得ない子供たちには心動かされるものがあった。監督は、幼いころからこの地で生活していたとのことで、これは彼の実体験に基づく強烈なメッセージなのだろう。新たな才能の出現を素直に喜びたいと思う。