2.《ネタバレ》 題名の『リコリス・ピザ』とは1970年代に南カリフォルニアに実在したレコード店の名前であり、
LPレコードを意味するスラングだという。
1973年のあのときにフィーチャーした一曲一曲の世界観が、15歳少年と25歳女性の恋物語を形作っていく。
近づいたり、すれ違ったり、寄り道したり、想いをなかなか告げられずに…と初々しい。
初主演ながらアラナ・ハイムとクーパー・ホフマンが自然体で体現してみせる。
決して美人ではないのに従順ではないエネルギッシュさを宿すヒロインに少年が惚れないわけがない。
そんな口達者で度胸もあり背伸びしていて幼さを残す少年役のホフマンに名優であった亡き父親の面影を見た。
初期作『ブギーナイツ』と『マグノリア』の軽快さはそのままに肩肘を張らず気楽に見られる、
ポール・トーマス・アンダーソンの演出は円熟味を増している。
彼は二人を未来も分からぬ航海に前に向けて送り出す。
二人は手を繋ぎ、走って、走って、走り続ける。
そのショットが最高に美しく多幸感に満ちていた。