3.《ネタバレ》 実在のスペインの画家アントニオ・ロペス・ガルシアは、毎年秋になると庭に手ずから植えたマルメロの木を=その実った果実に降り注ぐ陽光をキャンバスに写し取るべく再び製作を始める。しかし、誂え向きに日々好天が続くとも限らず、また枝も葉も実も留め様も無く刻一刻と姿を変えてゆく中で、いずれ実は地面に落ちて腐り、そして作品はまた未完となるのだ。その、ある年の製作過程をそのままフィルムに収めたという、まずは何よりコレ多分ドキュメンタリのジャンルに入るべき映画っすね(まあ、つくり自体=撮り方やシーンの構成なんかは全然劇映画っぽいですし、当年のカンヌでもコンペティション部門の出品作となって審査員賞も獲ってたりするのですケド)。かつ、主に9月末~12月中旬の二か月半の出来事を追っている、とは言え、殆どストーリー展開の無い映像が140分も続いてゆくのですから、エリセ監督の前二作に比べても遥かに「普通の映画っぽくない」作品だとも思います。その辺の事情は、ある程度頭に入れてから観た方が好いってレベルの作品…かも知れません。
しかし、そのスペインはマドリッド・リアリズムの正真正銘の巨匠…というロペス氏の、丹念に語られる製作過程そのものに関しては、よく観ると(とゆーのもナンですが)かなり面白みが在るとゆーか、最初は木のトコロに縦横に糸を張って(⇒ああコレが垂直線・水平線なんだな、と)んで更に地面になんか釘を打ってんなと思ったらコレは所謂「バミリ」なんですよね(⇒自分の爪先が常にその釘のトコロに来るように、と)。かつ、前述どおり何週間も描いてゆく中でチョコチョコ実や葉に絵の具で印を付けてんなと思ったらコレは今度は「時間経過による変化を測るもの」だとかって、最後は結局実も葉も殆ど全部印だらけになってたり(⇒んな面倒なコトすんならさっさと描き上げろよ!と少しダケ思ったりも)。
ソコは率直に、やっぱリアリズムの画家なんだよな~とか思ってたんですケドも、中盤に同業者?から色々と質問を受けてる場面が在って、ソコで「なら普通は最初に写真撮ったりしない?」とか言われると、いやそうじゃない⇒木の側に私が立って時間を共有するコトが重要なのだ云々…みたいなコトを言い出したりもして、ソコは再びちょっと意外だったりもしたのですよね。聞けば、この人もまた非常に「寡作」な芸術家だとのコトで(⇒このマルメロの画だって毎年未完で何十年も描いてる、とかで)想像ですケド今作、ソコにエリセ監督が大いにシンパシーを覚えた…とかってヤツなのかな~と思ったりもするのですよね。確かに、一般的な映画として楽しめるって作品ではないかとは思いましたが、私自身も(まあソレでも私は雰囲気映画的な楽しみ方って観点ではフツーに十分楽しかったとも思う…その上で)教養とゆーか少なからず何か学び取れたモノは在ったかと思いますし、ソレこそアーティスト=表現者の方々にとっては、更に大いに参考になる様な部分も在るのではないかと思うのですね(⇒特にズバリ画家の方々なんか、より絶対面白く観れると思うのですよね)。個人的にはある種の「芸道」映画に見えたってコトで、こんな評価としてます。