2.《ネタバレ》 “スターリンのヒムラー”の異名を持つ秘密警察長官ラヴレンチ―・ベリヤの処刑については実は様々な異説があり、プーチン大統領はもちろん真実を把握していますが決して彼が(そしてその後のロシアの政体が)真相を明かすことは今後もないでしょう。でも本作で描かれるようにスターリンの葬儀直後に処刑されたというのはフィクション(逮捕直前の細かいディテールは一般的な通説に従っている)ですが、これはまあ許容できる創作の範囲だと思います。 スターリン死の前後のドタバタがこの映画のテーマですが、歴史上稀にみる過酷な独裁政治の終焉ですからその視点がブラックかつシニカルであるのはストーリーテリングとしては正解でしょう。スティーヴ・ブシェミのフルシチョフを始め政治局員の面々は実物と良く似せたふん装で、とくにブルガーニンやカガノヴィッチはそっくりです。この人物たちの権力欲だけは旺盛な小物ぶりは実にコミカルで、実際この人たちはスターリンに気に入れられなかったら一国の統治に関わるような資格さえ持てなかったんじゃないですかね。逆にベリヤが改革を進めようとする善玉のような見せ方になっているのが皮肉です。実際に彼はスターリンの死後いち早く収容所の開放や政治犯の釈放に取り掛かっているのですが、これはストーリーの進行上スターリン時代の悪行をほとんどスルーしてしまったためで、このことを批判する欧米の批評家も存在します。 さほど遠くない過去に起きた醜悪な歴史的人物たちが繰り広げるドタバタ劇、としかわたくしには感想が思いつきませんが、劇中NKVD内の廊下にまるで電話のベルが各部屋で鳴っているかのように響き渡る銃声が悪夢のようでした。その中で、狂言回し的なキャラだったオリガ・キュリレンコが一服の清涼剤でした。