1.たしかにカメラがよく動く。でもその流れるようなカメラワークが美しく、寄ったら寄ったで次のカットも寄った画から、引いたら引いたで次のカットも引いた画からと、カメラと編集の、いわゆる成瀬組のプロの仕事をたっぷりと堪能しました。成瀬巳喜男の描くダメ男といえば『浮雲』の森雅之が有名ですが、こちらも負けてません。人柄が良いのでごまかされやすいですが相当ダメ男です。そんなダメ親父を愛する二人の女。しかしそのうちの一人である本妻は歌には夫への想いを詠っているのに本人を前にすると素直になれない。そりゃ愛想もつかされるわ、てな行動ばかり。最後には娘にまで「お母さんの負け」と言われる始末。でもこの不器用な女こそが成瀬映画の女。男を愛するがゆえに貧しくとも健気に生きる女に対し、男を愛しているが、だからといって自分の性分はけして変えることはなく、でもそれを女の強さとして描くわけでもなく、はたまた運命に流される女の弱さを描いているわけでもなく、ただただ「妻」という枠を越えた女の性分を可笑しく、そして哀しく描いている。