5.《ネタバレ》 傑作「カジノロワイヤル」よりは少々落ちるものの、満足のいく仕上がりとなっている。カーアクション、モータボート、飛行機、パラシュートと、過去の“007シリーズ”で描かれてきたことが非常に多く盛り込まれていると気付かされる。石油まみれで殺された女性の死体の描き方はもちろん「ゴールドフィンガー」からの引用だろう。
このシリーズに愛着ある者には“ニヤリ”とさせられるシーンが数多かった。
本作はやはり紛れもなく“007シリーズ”の系譜を引いている作品だ。
悪く言えばオリジナリティが欠如している作品かもしれないが、本作のオリジナリティといえば“復讐”の描き方だろう。
復讐に燃える二人の男女を描き、『復讐とは何か』を問うている。
鑑賞中は「ボンドは彼女に復讐を果たさせない」というベタなオチで締めくくるのかと思っていたが、「彼女に復讐を果たさせる」という予想外の展開だった。
確かに「彼女に復讐を果たさせない」よりも「彼女に復讐を果たさせる」方がより“深み”を増すという結果になっている。
たとえ、復讐を遂げたとしても、その後には何も残らない、呆然とへたり込んで一歩も動けなくなり、ただ死を待つだけだ。
“復讐を果たしても何にもならない”と言葉で説得するよりも、“実際に何もならない”と描く方がより説得力が増している。
ポール・ハギスの脚本の上手さがよく分かるシーンだ。
真の意味で“復讐を果たす”とは、「復讐するという気持ちを忘れて、復讐から自由になること」ということなのだろうか。
ボンドが投げ捨てたペンダントからは、そういう趣旨が伝わってきた。
ボンドが飛行機の中で6杯ほど飲んでいたお酒は、ボンド命名の“ヴェスパー”というお酒。前作で死ぬほど愛したのに裏切られた女の名前を付けたお酒だ。
こういうシーンも奥深くて、非常に上手いと感じられた。
ボンドの苦悩が感じられ、まだ開放されていないと知ることができる素晴らしいシーンだ。
そして、「相手を許して、自分も許せ」とマティスの言葉にも重みがある。
ボンドに対して恨みがあるからこそ、マティスの言葉には胸を打たれる。
さらに、かつてGUCCIのデザイナーをしていたトム・フォードの手掛けたボンドの衣装も必見だ。ファッションに興味のある人には、注目して欲しい。