15.《ネタバレ》 サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』は、理想を求めて街を漂流する少年がもがきながらもやがて現実と折り合いを付けようとする物語だ。この映画も似たような匂いがあり、大学を卒業した青年が真の幸福を求めて、失踪同然の当てもない旅を続ける。あまりにも無鉄砲で青臭くて世間知らず。しかし、かつて問題児だったショーン・ペンは彼にある種の羨望を抱いていたのだろう。大人としての客観性も兼ねており、ドル札を焼きながらもバイトで資金を溜める矛盾に、列車に無賃乗車をすれば容赦なく殴られ、アラスカの荒野での廃バス生活では独りで暮らすことの限界を知っていく。「幸福は誰かと分かち共有するもの」。死に際にそれに気付くとはあまりに皮肉すぎる。もし地図を捨てていなかったら家族と抱き合っていたかもしれない。そして父親になって、自分を戒めるように子供に現実の厳しさを教えていたはずである。見る年齢によって感想がかなり変わるだろう。卒業間際で内定も見つからなかったときに本作に出会い、彼に共感していた。定職を持った現在なら冷静に見ていたかもしれない。親不幸にならない程度に、醒めないうちに行動することは若さという特権だ。 【Cinecdocke】さん [映画館(字幕)] 8点(2017-07-11 19:19:17) (良:1票) |
《改行表示》14.面白かった。ショーンペンの監督としての才能を感じさせる映画でした。ロードムービーとサバイバル映画を混ぜたような映画の中で、少年の頃の体験など親子間の葛藤に悩み旅をする青年。きっとその答えは自分も親になってみないと分からないのかもしれないのだが、大学卒業したての青臭さと出会った大人たちとのふれあいが、青臭いガキの理想みたいな話をそんなことを忘れた現実主義の大人がちゃんと中和してくれて観ていて嫌な気がしない。 また、ロード・オブ・ドッグタウンの時から思っていたが、エミール・ハーシュがかつてのリヴァーフェニックスやディカプリオを彷彿とさせる雰囲気と演技で観る人を映画に引き込んでいく。まあ、実話を元にという話なんで、エンディングはこういう感じにならざるを得ないのでしょうが。私も同じ歳の頃、なにも決めずに一人カナダに1年ほど行ったことがあるのだが、その時の体験や気持ちは、一生忘れないだろう。そんなことができるのは企業戦士になる前の若い時だけ。今、草食系と呼ばれる若い世代の人たちにも殻を破って今まで経験したことのない事を経験してほしい。(たとえ海外じゃなくても)でも家族には連絡を。 【シネマファン55号】さん [インターネット(字幕)] 8点(2015-02-04 15:37:55) |
《改行表示》13.《ネタバレ》 世を儚み、文明社会と縁を切って、自然と共に暮らしたいと願う人はいるだろうが、実行する人は稀有である。それを敢行した人の実話なので貴重だ。彼は潔癖な性格だ。それは、車、身分証明書、お金、名前まで棄てて、過去と完全に決別した上で旅立ったことからも窺える。潔癖ゆえ、私生児たる出生の秘密と、家庭内不和がどうしても許せなかったのだろう。遁世の理由は「愛よりも金銭よりも信心よりも名声よりも公平さよりも真理を与えてくれ」という言葉が近く、真の人間たる姿を求道していたのだろう。 都会出の彼が、最初からアラスカ行を計画していたとは思えない。放浪しながら、もっと厳しい環境に身を置こうと、思いついたのだろう。「人生において必要なのは、実際の強さより強いと感じる心だ。一度は自分を試すこと。一度は太古の人間のような環境に身を置くこと。自分の頭と手しか頼れない苛酷な状況に一人で立ち向かうこと」 人を拒む厳寒の自然の中に身を置き、自然の恵みだけで生きるには、強靭な精神力が必要だ。彼は、世を捨てたのではなく、生きている証しとして自分の限界を試したかったのだろう。人間とは何かという真理を見つけたかったのだろう。彼は価値観の定まらない軽佻浮薄な若者ではなく、確固とした哲学を持っていた。だから出会う人達との間に交流と友情が生まれ、強烈な印象と影響を与えた。特に最後に出会った老人との交流は胸を打つ。老人は、若い頃に妻子を交通事故で失くした退役軍人だ。家族を喪失した老人と、家族を捨てた若者とが、お互いの身の上を話し合い、理解し合い、遂に、老人は若者に養子にならないかと申し出る。人間も捨てたもんじゃないと思わせてくれる。結果として彼が落命したのを理由に非難する気はない。自然との暮らしは死と紙一重なのだ。 「偽りの自分を抹殺すべく、最後の戦いに勝利して、精神の革命を成し遂げるのだ。これ以上文明に毒されないよう逃れて来た。たった一人で大地を歩く。荒野に姿を消すため」このような人はもう現れないのではないか。劇中彼をキリストになぞらえた人がいたが、宜なるかなである。勇気ある冒険をした彼を賞賛したい。遺憾なのは、彼が増水した河に沿って移動しなかったこと。実際四百m先に鉄道があったらしい。又、廃バスが無ければどうやって住処を確保する積りだったのか。移動手段を車や貨車に頼ったのはどうしてか。気になる点である。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 8点(2014-11-30 19:38:57) |
《改行表示》12.《ネタバレ》 彼は現代文明における価値観、その意味を、自分の剥き出しの魂でもう一度再確認したいという思いで旅に出たのだろうと思う。 しかしそれは彼に限らず若い頃に多くの人が通る道でもある。 たまたま彼が不幸にも遭難死してしまい、その足跡が手記に残されていたところから多くの人々にその存在を知られることになった。 「現代社会の価値観を否定と言いながら結局はその社会に甘えた身勝手な自分探しの旅」という批判も確かにある。 しかし僕はこんな生き方もあって良いと思う。 もし彼が遭難せずに生還したら、どうだっただろう。きっと彼はやがてこの世の中と折り合いを付け、彼なりの人生を歩んでいったのかもしれない。 この作品が高い評価を受け、原作がベストセラーになっているというのは、彼の生き方に自分を重ねたり、憧れを感じる人々が多いということなのではないだろうか。 かくいう自分も彼ほどの行動力も思慮も無いのだが、魂を揺さぶられるような感動を覚えた。 【ロイ・ニアリー】さん [DVD(吹替)] 8点(2010-12-09 13:11:50) |
11.《ネタバレ》 自然との戦いを自ら挑んでゆく主人公。凄まじいロケーションに裏打ちされて、主人公の持つ大自然への憧れがリアルに迫ってくる。死ぬ寸前に一番大切なものに気づかされる、そのやるせなさに心震えた。 【j-hitch】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-08-17 22:13:52) |
10.《ネタバレ》 彼の考え方が揺れていることも隠さず表現しているところが素晴らしいと思う。「人との出会いよりいいものを神は用意している」と感じたり、「喜びを誰かと共有することが幸せなんだ」と感じたり、完成された(堅くなった年寄り的な)思想家とは違う不安定さが共感できる。最後のクレジットに「主人公のご家族の全面的な協力で映画が完成できた」というメッセージが出たが、ご家族も家族の暗部を描くことを承諾したんだ・・息子の人生を、自分たちの都合や社会的立場で都合よく脚色しないんだ・・と、家族の姿勢にも感動した。 【グレース】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-03-17 22:54:44) |
9.こんな生き方があるのかと、物の見方を変えてくれそうです。彼のように、出会った人たちにあれほどの影響を与えるような人物はそういないと思います。 【色鉛筆】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-02-14 15:30:16) |
|
8.《ネタバレ》 パッケージの爽やかさとロードムービーという情報のみで借りたのだが、かなりヘビーな内容。主人公が口にすることは一見強くて意志のある人間にも見えるが、彼のとった行動は愛情欲求の裏返しでしかないのだと思う。彼に生の実感がないのは、安全が満たされすぎて生の実感がわかないという豊かな社会における特権的欲求というよりも、親からの愛情欲求が満たされてない所から生じているように見える。故に、荒野で死の危険と隣り合わせになっても解き放たれることはない。旅の過程で温かい心の交流もあり、心を開いていけるチャンスはあった。しかし、彼はいつもあと少しの所で踏みとどまってしまう。表層的な接触しかなく、深部ではつながっていない。嫌われるくらいなら、いっそのこと親密にならないほうがいいし、荒野に行けば訳の分からぬ物足りなさは満たされると思っている。だから逃げる。物語の最後、彼が出した答えには考えさせられた。生の実感というものは、人との関係性の中で見つかるもので、荒野で見つかるものではない。他人と共有する、楽しさや一体感などの見えない感覚の中にこそあるのだと思う。独りで身の危険を冒して得る生の実感は常に虚しさと隣り合わせなのですね。彼はアラスカで独りになるんじゃなくて、行く宛ても無い旅を続けて色々な人ともっと交流していくべきだったのだろう。彼が命を懸けて、親の愛情、そして人間の愛情に飢えていることを自覚したのがとても切ない。 【Nujabest】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-01-16 09:01:08) (良:1票) |
《改行表示》7.《ネタバレ》 主人公の持つ、信念の強さがなんとも美しく輝いていて強く心に響きました。 人生の「深さ」は長さではないとも改めて感じながら、 きっと、誰よりも生きている事の実感を得ているであろう彼が、とても羨ましくも思いました。 ラストで映し出される、残されたフィルムから現像された写真に写っている彼の逞しく微笑んだ人生に、少しでも追いつけるように、私自身もしっかりと歩んでいきたいと思いました。 【sirou92】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-12-27 22:26:32) |
6.《ネタバレ》 観賞後、思わずため息が出た。旅先で出会う人間はすべていい人たち。無賃乗車で殴られるのも本人に非があったのであり理不尽なことではない。両親が不仲なのは彼だけの境遇ではなく世間一般によくある話。なのに彼はなぜ荒野を目指し孤独を求めたのかが理解出来ない。観かたによって受ける教訓は人それぞれだろう。個人的な感想としては、もう少し時間をかければもっと現実と寄り添って生きていけたろうに、若くして生き急いだ青年の物語のように感じた。 【kaaaz】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-04-29 00:41:05) |
5.《ネタバレ》 大自然サバイバルロードムービー。お金も身分証も使わず、食糧は狩りで調達するといった徹底的なストイックさをもった甘えのない青年の一人旅には胸を打たれます。壮観すぎる風景の数々を見てるだけでも満足できるし、音楽の使い方も秀逸。二時間半のボリュームにも納得の隙のない骨太な一本。短かろうが長かろうが、彼のように満足できる一生を送りたいものですね。 【すべから】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-02-02 00:10:53) |
4.《ネタバレ》 昔、「生きている意味が分からない」とベトナムに出征し、片足と手の指を失ったアメリカの若者が居たそうだが。彼にとっての幸福とは、純粋な「生きているという実感」だったのではないかと思う。……いかに裕福な家庭や才能に恵まれていても、嘘まみれの社会や偽善的な家族の中では生きていることを実感できない。彼は何にも邪魔されることなく、純粋に「幸せ=生きている実感」を感じたかったんじゃないか。だから、自分ただ一人の命を純粋に向き合える環境、つまり「アラスカの大自然の中」を目指したんだと思う。……幸せも、生きている実感も、結局、自分一人だけでは実感できない。最後にそう悟れた彼の一生は、皮肉だけれど、幸せで悔いはなかったのではないか。木版に刻まれた、彼の最後のメッセージのように。 「世界中のみんなが、幸せでありますように。僕の一生は、幸せだった」 【six-coin】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-10-19 23:39:16) |
《改行表示》3.《ネタバレ》 クリスという人物の行動に対しては、正直なところ共感できませんし、愚かしい、としか思えません。 にもかかわらず、この映画には感動しましたし、特に、岩山の上でロンに対して人生を語る場面では、涙が止まりませんでした エミール・ハーシュの賢く人懐こい雰囲気、アラスカの美しい自然、そしてなにより、 本作品が、「死んでしまったけれど、彼は幸せについて彼なりの答を見つけられたんだよ、荒野で人生を終わらせるつもりなんてなくて、生きて幸せになろうと思っていたんだよ」と伝えようとしているからではないかと思います。 【なつこ】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-09-27 20:25:54) |
2.自分再発見のロード・ムービーでした。旅先で出会う人物達がとても魅力的で、お互いが何かを教えられ、人として一回りずつ大きくなっていくのです。本当の幸せとは何か、最後に気付かされるまで、とてもさわやかな気分で鑑賞できました。 【shoukan】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-09-22 16:37:04) |
《改行表示》1.雄大な大自然の中、約束された恵まれた暮らしを捨て、ひたすらに歩く青年。「自分探しの旅」などと使い古された言葉で表現していいのか… これは難しいテーマ。 当たり前かもしれませんけれど、感情移入出来るかどうかがポイント。私は… 少しずつ出来たかな? 自分勝手な金持ちの御曹司が、実は悲しく重い過去を抱えていて、それでも自らに厳しくなることで、徐々に人間として成長していく。その姿が見事に描かれているから? それとも、ただただ「実話」の2文字があまりに重いから? 自分勝手に思ったことは、運命は自分の信念と努力で切り開くことが出来そうでいて、自らの力で切り開き、そして勝ち取ったと信じて疑わない人生も、実はそれこそが初めから定められた運命なのではないかと…。そんなことに思い至った1本でした。 【タコ太(ぺいぺい)】さん [試写会(字幕)] 8点(2008-08-25 01:07:45) |