5.《ネタバレ》 ・原作未読
・村上春樹作品は「ノルウェイの森」を読んだくらい
・戯曲に関する知識皆無
上記で臨みました。
程度の差こそあれ、人間は誰でも世俗にまみれて生活していく中で隠しておきたい事、
それでも敢えてハッキリさせなければならない事、それでも一歩を踏み出せない事は有る。
本作では演劇の台詞を録音したテープの再生と、それに呼応する主人公の台詞の朗読が繰り返し描写される。
当初は単なる主人公のルーティンとしての描写でしかないそれが、物語が進むに従い、
徐々に映画を観ている側で有る私達への静かな、それでいてとても強い問いかけに変わっていく。
本作唯一とも言える物語終盤の大きな起伏を経て、映画は主人公が切々と演じる舞台の描写となる。
様々な言語が行き交うその中で、終幕に手話でゆっくりと切実に訴えられる一つの普遍的な事。
そう、人は様々な事を乗り越えて、いや、例え乗り越えられていなくても生きて行かなければならない。
約3時間に及ぶ長尺、そして特に大きな起伏も無く淡々と進む描写。
映画館の暗闇に身を浸し、目の前で繰り広げられる事に没入する事に慣れていない人にはハードルが高い作品かも知れない。
でも、敢えてそれを知った上で劇場に赴けば、鑑賞した人それぞれ何かしら得るものが有る作品だと私は思う。
決して万人受けする内容では無く、煽情的でもないこの様な作品が世界で受け入れられた事はとても興味深い。
本作を鑑賞している人は皆、本作を通じて自分自身が出演する別の映画を想像していたのでは無いだろうか。
最後に、韓国人俳優のジン・デヨン氏の抑えた演技が素晴らしかった事に触れておきます。