3.ベストセラーとなった横山秀夫の同名の小説の映画化です。
小説を原作とする映画の難しいところは、どう時間内に収め、なおかつテーマを見失わないか、という課題がいつもあるところですが、この映画はそれを見事に乗り切ってます。記者が男ではなく女である事をはじめ、カット・変更されて映画なりの表現や描写になった部分はありますが、原作のテーマからブレることなく描ききってます。途中やや中弛みしますが、原作をよく読み、囚われもせず放棄もせず、しっかりと読み込んだ事を窺わせる脚本ではないでしょうか。原作の表現などを映像で再現しようとして失敗した映画もある中で(ミスティック・リバーとかな)とても素晴らしいです。
原作と違うと感じるのは、梶に深入りしてしまう原因はなにか、という部分でした。
志木にしても、佐瀬にしても、通常の手続き、あるいはタブーとされる行為を考えたり実行したりします。
原作では「梶の人間性に対する興味」にスポットを当てていますけど、映画では「栄達願望」や「虚栄心」の部分をクローズアップしていき、「梶という人間や生命、魂というものに踏み込んだ人間」に対する「俗世的な心」の対比を見せていきます。それでいて「梶」が聖人のように見えないのは脚本だけでなく、寺尾聡の確かな演技力でしょうか。
吉岡秀隆の「藤林」は初めは抵抗があったのですが、あそこまで「裁判官」を踏み越えていけるのは「同じような悩みを抱えている」だけではなく、「若さ」「青さ」が残っていないとムリだと思えてきました。それも「梶」という人間との対比の一つかな、と。ただ、新人、初心者っぽい浮つきを感じてしまうので、もう少し成熟して重みを出せる俳優の方がよかった、とは思いますが。