2.《ネタバレ》 成瀬作品の魅力の一つとして感情を台詞で説明するのではなく
演者の視線や表情・動作等で示す「見せない・隠した」演出方針があると思うが
この作品は彼の作歴上珍しく、感情や欲望含めて「さらけ出す」事に
重点を置いた人物/環境設定が私には意外であり、面白かったのでこの点数。
五代目古今亭志ん生の高座中、禄でもない男と付き合う女性の心境を
「だって寒いんだもん」で説明する小咄がある。まさにこの感情を地でゆくヒロインお島。
彼女を取り巻く環境も、付き合ってゆく男たちもどうしようもなく酷い。
(私の好きな男優・森雅之/志村喬/加藤大介/宮口精二/田中春夫、みなグズだからワクワクする)
「あらくれ」である彼女はこういった境遇から抜け出す器量も度量も才覚もあるはずなのに、
「寒い」から抜け出せない。脚本水木洋子も過去の「浮雲(’55)」に比べて性愛肉欲から
抜けきれない感情をこの時代にしては深く掘り下げてきた点、注目。
作中劇「金色夜叉」に表れる皮肉も効いてるし、
感情の発露がラストの夫の愛人との喧嘩に結びつく展開も良い。
「浮雲」が苦手な皆様、こちらをぜひどうぞ。
ようやく昨年2021年にDVD化されたので、機会があれば。
(成瀬作品初心者には①「おかあさん(’52)」⓶「稲妻(’52)」③でこの作品か
「女が階段を上る時('60)」をどうぞ。「浮雲(’55)」 「乱れる(’64)」はその後で)