1.今僕が日々の生活で生きていく中で、とても大切にしていることは、「食べる」ということだ。
それはもちろん、今に始まった感覚ではないが、歳を重ねていく中で、殊更にそれの重要さが身に染みてきている気がする。
分かり切ったことではあるけれど、人生は楽しいことばかりではなく、むしろ辛いことの方が多い。
ただその中で、日々の「食べる」という行為が充実していれば、ただそれだけで人生は幸福になり得る。と、思う。
「生きることは、食べること」と、この映画は謳う。
それはとてもシンプルなことだけれど、幸福感に溢れ、同時に、潔く、厳しい「真実」だと思う。そして、その「真実」をきちんと描いたこの映画は、同じようにシンプルで、ただただ素晴らしい。
“とある事情で”で声が出なくなってしまった主人公、倫子。彼女が出来ることは、ただ美味しい“ごはん”を作れることのみ。彼女が作った小さな「食堂かたつむり」に訪れ、食事をした人々は、次々に願いが叶っていく。
温もりに溢れたプロットに、温もりに溢れたおいしそうなごはんが次々に登場し、その美味しそうなごはんと、それを美味しそうに食べる人たちの姿を見るだけで、幸福になる作品だ。
ただ、この映画は、そういった幸福なグルメ映画の範疇だけでは留まらない。
「食べる」という行為の根本を、もっとひたすらに純粋に追求し、その根本をしっかりと描いている。
料理自体の”美味しさ”は二の次で、それよりも前に存在する、「食べる」そして「生きる」というすべての生命の営みにおける「幸福」と「残酷」を真正面からしっかりと描き切っている。
その“まっすぐさ”が、この映画の最大の素晴らしさだと思う。