8.《ネタバレ》 傘、冒頭の落下と終盤の浮遊の見事さ。
赤から青へ。
そして電車は同構図の中で来て帰る。
それだけで素晴らしい。
西谷弘が視線劇をしっかりやってくるのはいつものことだが、
終盤の杏と風吹ジュンのカットバックはもうとんでもない。
見つめ合って黙っているのだけどもカットバックの間に回想を挟み、
ふたりの視線と回想で会話させている。
そして何より、マジック・ミラーを介した杏と前田吟の件などは、
視線劇を飛び越えて、もう何がふたりを会話をさせているのだろうか、
ああ、それは愛情か、血は繋がらないけども愛情だろう、やはり。
そしてシーンバックの見事な連鎖を起こさせるペットボトル・ロケットの件は、
勿論、お見事過ぎるのだし、あのペットボトルの中に仕込まれた携帯電話の動画機能、
これもまた、ある意味での視線によるカットバックをしているわけだ。
『アマルフィ』や『アンダルシア』では、ただの説明過多の回想シーンであったが、
この映画での回想はしっかりと物語として機能している。
それは、謎を解く、説明する回想ではなく、ひとを描く回想になっているからだろう。
現在の日本で唯一、シネコンで上映される大作娯楽映画を見事なまでに撮り上げてしまえる監督、
それが西谷弘であって、『真夏の方程式』は間違いなく西谷弘、ここまでの最高傑作。