1.《ネタバレ》 ツッコミどころを挙げると色々とあるSFです。特に物語が後半に差し掛かると腑に落ちない点がどんどん出てくる。ドサクサとは言え何の障害もなくスパイダーがエリジウムに到着できたり、クルーガー一味が簡単にエリジウムでクーデターを起こしたり、肝心な時にドロイド達は姿を見せなかったり、主人公とクルーガーの最終決戦がショボかったりetc...。富裕層と貧困層の差、一方は永遠に近く生きれるが、他方はゴミのように死んでいく、という物語のテーマも、言いたいことは分かるのですが、分かり易すぎるように描くので少し白けてしまいました。矢張りうまい脚本とは、ある瞬間にハッとテーマが浮かび上がるものだと思います。
但し、ビジュアルだけは個人的には完璧でした。スペースコロニーと地球の貧富の差を描いたSFは古くはロバート・A・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』(これは月ですが)から、富野喜幸の『機動戦士ガンダム』に繋がっていく、言わばSFのド定番。ニール・ブロンカンプはその定番を見事に映像化出来ていたと思います。未来のLAのスラムの風景は砂埃が舞い散りドキュメンタリックに汚く見せ、エリジウムの風景は正にユートピアと呼ぶにふさわしい滅菌されたような世界として写す。だからエリジウムでは殆どカメラはブレない。
そんな世界だからこそ地上にいる人々は自然と空に浮かぶエリジウムを見上げる。まるでバベルの塔を造り登ろうとした人間の様に。このビジュアルを観ただけで正直私は満足してしまいました。
また海外で成功してハリウッドで映画を撮る大抵の監督が、大作になると描写が甘くなったり、個性が弱くなってしまうのに対し、ニール・ブロンカンプはそんな気配が一切ない。銃撃によって粉々に砕け散るドロイド(言わば機械のゴア描写!)、巨大なスラムの空撮、その上空に浮かんでいる巨大物体、人体改造&破壊描写、等のブロンカンプ印はしっかりと入っている。できれば次回作はもう少し脚本をブラシュアップして作って欲しいものです。