2.《ネタバレ》 とんねるずのパロディコント「波の数だけ抱きしめて2」も秀逸でしたが、元ネタである本作も、中々の傑作。
当初は別所哲也演じる吉岡卓也が主人公だったとの事で、言われてみれば序盤でヒロインに一目惚れする辺りが、それっぽいですね。
脚本を読んだ織田裕二の「最後に告白する男の方を演じたい」って意見を反映させて、本来は脇役だったキャラが主役になってるのですが、それによって「ヒロインに惚れてる男二人」の出番が同じくらいの比重になり、結果的に良い三角関係が出来上がったように思えます。
そんな三人だけでなく、メインの五人組は全員キャラが立っていたし、青春群像劇としての魅力があるんですよね、本作って。
「湘南中に聴こえるラジオ局を作る」という夢を叶える為に、皆で頑張る姿が眩しいくらいだったし、馬場監督の作品の中でも一番「若者達の青春」を感じさせる内容になってる。
現代がモノクロで、懐かしい過去がカラーという構成に関しても「初恋のきた道」(1999年)に先んじていたりするし、この辺りにも監督のセンスを感じますね。
しかも最後に仲間達と再会し、青春の輝きを取り戻してモノクロからカラーに変わるという「鮮やかな終わり方」な辺り、自分としては本作の方がより好みだし、上手くカラーとモノクロを使い分けてるなって感じたくらいです。
馬場監督の映画の中で、主人公とヒロインが結ばれないのは本作だけであり、そんなビターな味わいが評価を分けそうなんですけど、個人的には今回の味付け、大正解だったと思いますね。
「同じ女に惚れた男同士の、奇妙な友情」も良かったですし、ラジオを使っての告白が、ギリギリで彼女に届かなかったという切なさも、凄く好み。
それまでシャイで告白出来なかった主人公が、勇気を振り絞って「好きだ!」と何度も叫ぶ姿には、胸打たれるものがありました。
最後にエンディング曲ではなく、波や鳥達の「湘南の音」を聴かせて終わるのも良い。
過去を懐かしんで、ノスタルジーに浸るだけでなく「たとえヒロインが去っても、主人公には仲間達がいる」「味気ない灰色の世界から、もう一度輝ける」「湘南の海も、優しくそれを見守っている」と感じさせるような、最高の終わり方だったと思います。
何だか褒めてばかりになってしまいましたが、一応欠点も述べておくなら「群像劇としての魅力がある」っていうのは、裏を返せば「主人公が誰なのか曖昧」って事であり、その辺りが気になる人もいるかも知れませんね。
また、バブル期における馬場監督の三部作は、本数を重ねる毎に「物語の面白さや完成度」は増して「オシャレな雰囲気と、バブルの匂い」は薄れていく傾向にあるので、デビュー作の「私をスキーに連れてって」(1987年)が好きな人にとっては、この三本目は物足りないというか「こういうのが観たい訳じゃない」って気持ちになってしまう可能性もあるかも。
でもまぁ、バブル期に拘りの無い自分としては、上述の三部作は徐々に映画として成長していく様が楽しかったし、本作もお気に入りの一本ですね。
2016年のインタビューにて、監督は
「携帯電話の普及した今なら『お前のこと好きだよ』ってメール送って『じゃあ戻るわ』で終わっちゃう」
「今またこういう話を作るんだったら、ラジオ局を作るんじゃなくて、どこかの海岸でフェスをやろうって話になるんじゃないかな」
と語っているのですが……
海岸でフェスをやろうとする映画、是非観てみたいなって、そう思えました。