3.撮影を担当するのは、リー・ピンビン(マーク・リー)。
彼が撮影を担当した作品の中で、既に私が観たのは『花様年華』『フラワーズ・オブ・シャンハイ』『珈琲時光』『ミレニアム・マンボ』『戯夢人生』等で、意外に沢山あったりする。
しかしそれに気付いたのは、今回の『夏至』を観てのこと。
それまでリー・ピンビンがこれらの作品の撮影担当だったことは知らなかったし、名前すら知らなかったのだ。
彼の映し出す映像は、かのクリストファー・ドイルを思わせる。
上の作品群を見て気付いた方もいらっしゃると思うが、『花様年華』はドイルの代表作の一つだ。
じゃあなぜリー・ピンビン?となると思うが、『花様年華』に関しては二人で撮影を担当している様だ。
ドイルは『地球で最後のふたり』を観て以来ファンだが、この『夏至』を観てリー・ピンビンのファンにもなってしまった。
『青いパパイヤの香り』はまだ荒削りの感じがあった。
トラン・アン・ユン監督の描く、いわば“癒しの映像”がまだ中途半端だったのだ。
しかし今作『夏至』では、その瑞々しき映像が徹底的に追究されている。
これは半端じゃあない。
「ベトナムはきっとこんなには美しくないんでは・・・」と、余計なことを考えてしまうほどの、息をのむ美しさなのだ。
ストーリーは何てことのないものだし、正直、途中で少し眠くなってしまう様な内容だ。
しかし、この監督の描き出す「ベトナムを超越したベトナム」と、リー・ピンビンによる「美しすぎる映像」とが、それを帳消しどころかプラスにしてくれる。
特に三女とその兄とが暮らす部屋のインテリアは、“素晴らしい”の一言。
この部屋のインテリアを観れただけでも、この作品を観た価値があったと思える程だ。
その色合いの美しさに圧倒されてしまった。
よく、「映像だけ素晴らしい映画は映画とはいえない」みたいなことを耳にするが、そんなことは関係ない。
観ていて心地よくなれる映画なら、それでいいのだ。
どんなに名作と呼ばれ、どんなに評判の高い娯楽作品でも、“心地よさ”が得られなければ、私にとってはどうでもいい作品であるからして。
そういう意味でこの『夏至』は、今後繰り返し観ることによって、ぐんぐん点数がアップしていくことになるかもしれない。