12.《ネタバレ》 近年では新資料の発掘により高倉健が演じた徳島大尉=福島大尉の傲慢ぶりやその雪中行軍での実像が明らかにされていますが、原作の『八甲田山 死の彷徨』はあくまで(当時判明していた)史実をもとにしたフィクションであり、割り切って観るのが正解です。それでもこの原作を映像化したプロジェクトは、日本映画界の偉業というか狂いっぷりとして永く語り継がれてゆくことでしょう。だいたい、真冬の八甲田山であの豪雪の中ロケを敢行するというムチャっぷりがぶっ飛んでます。これはヴェルナー・ヘルツォ―クの『アギーレ/神の怒り』や『フィツカラルド』に匹敵する映画的暴挙とも言えるんじゃないでしょうか。CGなんかもちろん存在していなかった時代、あの腰まで埋まる積雪や暴風雪、雪がこびりついた軍服や軍帽のひさしから垂れる氷柱まですべて本物なんですからねえ。特に息を飲むのは雪崩に巻き込まれるシーン、実際にダイナマイトを使って起こした雪崩は想定を超えた規模になり、撮影現場で見ていた橋本忍は「こりゃ死人がでたぞ、これでこの映画は終わりだ…」と戦いたそうです。俳優やエキストラたちも過酷な扱いになり、褌一丁で雪の中で転げまわさせられたりしてこれだけでも重病人が出そうな撮影です。神田隊の隊列を鳥瞰で見せるカットからはその人数は史実通り200人超の様であり、普通の映画よりはるかに少人数だとは言ってもエキストラの確保は苦労したでしょう。某角川映画にエキストラ参加した経験がある自分としては、エキストラの半分が逃げたというのは実感できます。でも屋外ロケはほとんどが雪原であり、照明が使えないうえに雪が光を乱反射してしまうからフードを被った俳優たちの顔は昼間でもほとんど識別不可能、声で判断するしかないってのは苦しいところです。もっとも加山雄三だけは、あの独特の太い声と大根なセリフ回しのおかげですぐ判りますけどね(笑)。有名な「天は我々を見放した~」というセリフは史実に基づいているそうですが、たしかに部下の前で隊長が言ってはいけませんね。それよりも、徳島大尉=高倉健が道案内してくれた秋吉久美子に「案内人どのに向かって、かしら右!」と号令をかけるところの方が心打たれました、もちろんフィクションですけど。あと忘れてはいけないのはこの映画のテーマソングにすら思える軍歌『雪の進軍』、名曲です。 印象に残ったのは、地元青森出身の兵士が言う「あいつらは宮城や岩手の人間だから雪の本当の怖さを知んねえ」という言葉、雪国育ちではない自分にとっては宮城も岩手も冬は雪が多いところというイメージですが、青森から見たら全然違うってことなんでしょうね。でも確かに地図を見てみれば青森周辺は本州の中でももっとも太平洋と日本海が近接している地域で、この地理的要因がもたらす自然の猛威は軽く見てはいけないんですね。 【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2022-02-13 22:48:57) (良:2票) |
11.リアルな映像と迫真の演技であっという間の3時間でした。豪華キャストでしたが、この時代の人達は上手いですね。作戦で何故こんな事するの?ってのがいくつかありましたけど、まーそれはそれでご愛嬌ですね。健さんも変わらずシブかったです。 【SUPISUTA】さん [DVD(邦画)] 8点(2019-02-11 01:25:54) (良:1票) |
10.《ネタバレ》 これまでに何度か見ているが、国土地理院サイトの地形図やGoogle Earthで場所を逐一確認しながら見ると退屈しない。特にGoogle Earthを見ると山の形から撮影場所がどのあたりだったかわかる場合もある(注:現在はGoogle Mapでも3Dが使えるらしい)。原作本にも当時の詳細な地図がついている。 撮影秘話のようなものはあまり読んでいないが、映像からすればいかにも厳しい現場だったようには見える。特に、休止中の人々の頭の上に相当量の雪がそれらしく積もっていた場面があったが、落ちた様子を見ると本物の雪だったように見え、これはこのように雪が積もる間この人々がずっとここに立っていたことを意味するのだろうかと素朴な疑問を感じる。 また物語に関して印象に残るのは、まずは当然ながら兵隊さんのご労苦ということになるが、暗澹とさせられたのが最後の説明文で、生還した人々がわずか2年後に戦死したと書かれていたことである。この時の経験が満州の平原で生かされたのかどうか不明だが、明治日本が列強に追いつく過程ですり潰されていったかのような人々の存在が痛々しく、登場人物の子どもの頃の情景も、むしろそのこととの関係で哀しく思われた。 ところで弘前の部隊が村へ入る際、案内人を先頭にしてラッパ付きで行進した場面は普通に感動的だった。これは原作とも違っており、当時としては常識外れのことかも知れないが、しかし現代の映画としてはかえってこれでよかったのではと思われる。昔の軍隊は百姓町人に教わることなどないと思っていたかも知れないが、わからないことはわかる人間に尋ねるべきであり、またその人間には敬意を払わなければならない。そのような態度が成功をもたらすというのはまあ当然だろうが、この点でちゃんと筋を通してくれたことで、この映画が昔の軍隊の理不尽さを糾弾するだけのものでなく、現代人の心にも通じるものになっていた気がする。 なお部隊が敬礼をしたときに、案内人殿が照れたように笑っていたのは可愛らしい。いくら何でもこんな人が現地にいたかとは思うが、重厚な高倉健と軽やかな秋吉久美子の極端な対比は非常にいい感じを出していた。「まんまくうべや」という台詞が耳に残る。 【かっぱ堰】さん [DVD(邦画)] 8点(2016-05-28 14:11:03) (良:1票) |
9.《ネタバレ》 今さらながら初見。数ある高倉健主演作の中で、これがベストかなと。ドキュメンタリーと見紛うような過酷なシーンの数々もさることながら、やはり組織論・リーダー論として秀逸です。最後まで隊列も士気も乱さない少数精鋭の高倉隊と、いつの間にか隊列も指揮系統もバラバラになって壊滅していく大所帯の北大路隊の対比が、痛々しいほどに伝わってきます。それに、崩壊の元凶となる三國の描き方も見事。現場の知識や経験もないのにメンツや職位にこだわり、場当たり的な提言に翻弄され、結局組織を崩壊に導くような人物は、明治の八甲田のみならず、平成の企業組織にもいる気がします。ただし大きく違うのは、責任の取り方。三國はさすがに明治の軍人らしく、潔く自らの非を認めました。それに対して平成の団塊オヤジは「部下が無能だった。オレは被害者だ」とか平然と言い放ちそうですよね。 【眉山】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-10-12 21:06:52) (良:3票) |
8.《ネタバレ》 何しろ日露戦争頃のお話。無線も飛行機も未だ普及していない。そんな時代(110年も前だ)には大層な冒険だったことだろう、吹雪の雪山の行軍。そのその過酷な行程の、イヤというほどの時間を使った描写は、見事。途中途中に回想として挿入される、青葉の木漏れ日や、美しい花畑などの映像が、さらに吹雪の厳しさを強調する。登場人物たちの背景に、遠目に見える雪崩が、CGなんかじゃ無いことを知っているだけに、余計に怖い。 また、この映画は他にありがちな、事件当人にまつわる家族や、恋人などの周辺の人のドラマを、あまり追っかけておらず、事件そのものの描写に注力しているのも良い。 戦争批判というのとはちょっと違うが、実際に当人に伝えるすべのない状態で、「作戦は中止した」のなんのって言う、司令官たちの会話が、実に虚しく滑稽だ。その上、馬鹿な上司のお陰でドンドン、ドツボにはまる様を見ていると、腹立たしくなってくるが、原作者は確かお役人さん出身だったと思い出し、彼の上司にこんな人がいたのかなあ、なんて思ってみたりもする。 【Tolbie】さん [DVD(邦画)] 8点(2012-11-24 01:51:22) |
7.最近、雪が降った日にふと思い出してDVDを借りてみた。小学生の頃、TVで観たときは、雪の中を行軍するのが、どちらの部隊かわからず、ただ中盤以降の阿鼻叫喚がインパクトに残っていました。(寒さで発狂して裸になるシーンはトラウマです)今は組織論としても理解出来、史実を調べてみると興味深く見る事が出来ます。三国連太郎の山田少佐が無能な上司の見本のように見えるのは映画的な脚色であったのでしょう。北大路欣也の心中がクローズアップされてるので騙されてしまいますが、山田少佐の判断は、それぞれの状況では兵たちの士気を重視しており、間違いとは言いきれないです。多くは準備不足に起因する遭難だったのでしょう。高倉健の徳島隊長にしても、史実では案内人に対して、かなり非情な扱いであったらしいです。公開時は案内人に「八甲田で見たことは一切喋ってはならぬ!!」と脅しともとれるシーンさえカットされてますから、役者のイメージと2つの部隊の対比をドラマ的に鮮明にするためだったのでしょう。映像的には雪崩のシーンは本物の雪崩を起こしたというからびっくりです。すごい絵です。夏に公開され、夏に納涼のために見る映画の代名詞的存在ですが、むしろ寒い日に見ることをオススメです。この過酷さを見ていると部屋の中の寒さなんて逆に忘れてしまいます。 【どっぐす】さん [DVD(字幕)] 8点(2008-02-13 10:53:37) (良:1票) |
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6.《ネタバレ》 第一次世界大戦下の日本で、実際に起こった陸軍の八甲田山での遭難事件をモチーフにしているため大筋は遭難パニック映画なのだが、新田次郎の脚色により、ゴーストストーリーが加味されている。 子供の頃、これを観た時はその不思議話を理解できずに、ただの遭難モノとして観てしまった。 それでも尚、壮絶でショッキングな作品である。 そこにゴーストストーリーを加えて何とも、切ない味付けを施している。 今尚、名作である。 【あむ】さん 8点(2004-06-13 21:18:58) |
5.日本の軍服映画の中では好評価できる作品。 学生時代スキーに行った時、吹雪かれて数メートル先が見えなくなる経験を初めてし、この映画のことを思い出した。山の天候は変わりやすい。くれぐれも侮ることなきように。 【Waffe】さん 8点(2004-04-19 04:54:20) |
4.見ててホントに寒くなった。これを実際にロケで撮ってるからそれだけでもすごいことです。俳優やカメラ、スタッフの苦労はどんなだったでしょうか。こんな軽装備で極寒の雪山訓練なんてのがだいたい人命軽視もはなはだしい。明治の陸軍のアホさかげんが分かります。寒さと疲労で次々死んでいく兵隊たちが可哀想で恐ろしい描写だった。寒さで精神状態がおかしくなるとホントに服を脱ぎ出すらしい。上官が誤った判断をするとひどいことになるというの生々しく見せてくれた。新田次郎の原作も読むとなおいい。 【キリコ】さん 8点(2003-10-16 15:18:31) |
3.たしかTVか何かで中学か高校の頃に見た。1回みただけで引き込まれてしまった。吹雪の描写に難ありとの意見もありますが、私はこの映画の自然描写に魅せられて、俳優の迫真の演技もよかったので、隊員達の苦労ぶりや、ずるずると深みに嵌って、遭難していく様がとても印象に残りました。あと、高倉健以下のの演じる明治の日本軍の描写なんですが、案内人の女の人に敬礼をするシーンがあったのですが、映画上の演出とわかっていても、この頃の兵隊は本当の意味でかっこよかったんじゃないかと感じました。礼儀も節度もあったのだと思いましたね。(この映画にはそうじゃない人も多く出てますけどね^^;) 【はむじん】さん 8点(2003-09-09 04:23:16) |
2.《ネタバレ》 夏に映画館に観に行って、寒い思いをした記憶があります。新田次郎の原作をわりと忠実に再現した映画だと思います。極限状態での人間の葛藤がよく描かれているとは思いますが、それぞれの部隊の位置関係を把握していないと、ストーリーが混乱するかもしれませんね。実話として、せっかく生き残った隊員も日露戦争の激戦地に送り込まれて、無理矢理戦死させられたという悲劇もありますね。実際に人工雪崩を起こして遭難場面を撮影して、その時には学者の見学もあったという逸話があります。それだけ雪の描写には特殊効果やCGには無い迫力があると思います。映画を観た人には、原作を読むことをおすすめします。 【オオカミ】さん 8点(2003-08-05 09:05:33) |
1.三國さん演ずる大隊長みたいな人って結構いると思いません?功を焦って余計な口出しをして現場をかき回し、事態を確実に悪化させて抜き差しならぬどん底に周りを巻き込んで突進する馬鹿って。そしてそれに追従するお馬鹿な取り巻きたち。北大路さん演ずる中間管理職は己のベストを尽くそうとするも上官には逆らえず中隊は全滅…。今も昔も繰り返される官僚組織(会社組織)の悪弊ですね。組織に属する人間は必見の映画。上司に持つなら高倉健さん演ずる大尉さん。少なくとも緒形拳さん演ずる伍長でありたい…(人に頼らず自分だけ助かる算段を忘れない、自分の安全は自分で確保)。 【ぶくぶく】さん 8点(2003-05-05 15:10:59) |