2.とりあえず、ヘルツォークの新しい作品が観られる、という事に関してだけでも感謝しちゃう(何となくだけど)。どうせ、いわゆる「出来のいい」映画なんて期待してないし、もうお好きにしてチョーダイ、お好きに観ますから、ってな感じ。しかしヘルツォーク作品という事を意識し過ぎると、やや肩すかしかも。本作では「人間と自然の対立」という構図は希薄ですからね。確かに、主人公の筋肉ムキムキ男(実にエエ体しとるのう)の朴訥とした姿からは、何か「続 カスパー・ハウザーの謎」と呼びたくなる雰囲気も無くは無いんですけどね。如何せん、ユダヤ人という背景を持った彼、もはや、カスパーのごとき完全な自然児ではあり得ない。そうであるにはあまりにも背負うものが大き過ぎるから。冒頭、主人公と弟は村人にからかわれ、排斥される。が、カスパーとの違いは、彼の持つ怪力によって人々の中に溶け込んでいく点(ところで、この朴訥とした兄と理知的な弟の関係、これはバカボンとハジメちゃんの関係をも彷佛とさせます。赤塚不二夫の影響がこんなところにまで及んでいるとは。笑)。しかし結局はナチスとユダヤ、という壁が立ちはだかり、これを彼は超えることができない。両者の間に彷徨うハヌッセンの不思議な存在感。そして皆、歴史の狭間にひっそりと消えていく。この映画のラストはスゴイ。当時の政情の不気味な雲行きを暗示するような、いたたまれぬ程の不安。見事なラストに、ゾクッとしました。ところで本作で聴くベートーベンのピアノ協奏曲第三番、実際よりイイ曲に聴こえますなあ(←コラコラ、何ちゅうことを)。