375.《ネタバレ》 何といっても印象深いのは、図書カードの件。
自分と全く同じ好みをした異性がいるだなんて、正に運命。
天沢くんに惹かれる主人公の気持ちも分かるなぁ……と思っていたら、それは運命でも偶然でも何でもなく、単に「好きになった女の子が読みそうな本を、男が片っ端から借りていただけ」だったと判明して、もう吃驚です。
主人公もコレには引いちゃうんじゃないかなと思っていたら、頬を染めて、ときめいている様子だった事には、更に驚かされましたね。
昔の恋愛映画って、現代の観点からすると「これってストーカーでは?」とツッコミたくなる展開が多いんですが、本作もその一例として挙げる事が出来そう。
監督は近藤喜文ですが、脚本や絵コンテなどは宮崎駿が担当している為か(相変わらずのロリコン映画だなぁ……)と思わせてくれる事にも、何だかほのぼの。
本当に、拘りを持って「如何に主人公の少女を可愛く描くか」を突き詰めたのが伝わってきて、恐らくは性癖的に近しい要素を持っている自分としても「あざとい」「不道徳」と思いつつも、惹かれるものがありました。
そして、これが大事なポイントなのだと思うのですが、本作って少女だけでなく、相手役となる少年も、凄く魅力的に描かれているんですよね。
美男子で、優等生で、特別な才能を持っていて、夢に向かって一直線でと、同性の自分からすると嘘臭く感じるくらいなのですが、そもそも劇中の主人公カップルって「女性から見ると嘘みたいな少女」と「男性から見ると嘘みたいな少年」という組み合わせで成立しているのであり、そこが男女問わず観客の心を掴む要因になっている気がします。
男友達に対し「本当に鈍いわね」と怒っていた主人公が、実は自分の方がずっと鈍感だったと分かる流れも面白かったし「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにも出来ないからね」という父親の台詞も、胸に沁みるものがありました。
もう一つ印象深いのは「自分よりずっと頑張っている奴に、頑張れなんて言えないもん」という台詞。
主人公が天沢君に対して引け目を感じていた理由が、この一言に集約されている感じがして、とても秀逸だと思いましたね。
そもそも本作って、天沢君は典型的な「王子様」キャラだし、そんな彼と、ごく普通の女の子が結ばれるという、極めて少女漫画的なストーリーなんです。
にも拘らず、男である自分が観ても共感を持てるのは、具体的に「彼に見合うような人間になる為に、主人公も頑張る」という姿が描かれてるからなんですね。
だからこそ応援したくなるし、そんな「頑張り」が暴走して、勉強の方が疎かになってしまい、しっかり者な姉との口喧嘩にて、つい強がって「高校なんて行かないから」と言っちゃう辺りも、痛々しいくらいにリアルに感じました。
この辺り(ちゃんと彼の事を家族にも話した方が良いのでは?)と、大人になった今では思ってしまうのですが、子供の頃って、こういう不思議な意固地さがありましたからね。
何だか懐かしい気持ちと、恥ずかしい気持ちを、同時に味わう事が出来ました。
クライマックスの、まだ薄暗い夜明け前。
自転車に二人乗りして「オレだけの秘密の場所」に向かうシークエンスなんか、本当に素晴らしく、それと同時に面映ゆくて、観ていられないくらい。
「それじゃ寒いぞ」と彼女に上着を渡す仕草。
「私も会いたかった」と彼の背中に頭を添えて呟く主人公の姿など、青少年が憧れてしまうシチュエーションが「これでもか!」と詰め込まれているのだから、もう圧倒されちゃいます。
上述の「彼に一方的に幸せにしてもらうだけの女の子ではありたくない」という想いが、坂道での「共同作業」にも表れており、これには(良いカップルだなぁ……)と、素直に祝福したい気持ちになれましたね。
最後には、結婚の約束までしちゃう事すらも、この二人ならば、自然に思えます。
万が一結ばれなかったとしても、一連の出来事の数々は、素敵な初恋の思い出として、いつまでも心の中に残りそう。
脇役であった杉村君と夕子ちゃんの恋の顛末を、エンドロールの中でサラリと描いてみせるのも、御洒落でしたね。
天邪鬼な自分からすると、主人公カップルが眩し過ぎて、まるで幻みたいで、どうにも感情移入しきれない部分もあったりしたのですが……
それを差し引いても、良い映画だったと思います。