12.《ネタバレ》 『浮雲』と並び、名優、森雅之の男の魅力が存分に凝縮された名編。
ラストシーンの、娘である芦川いづみとの再会シーンは、鳥肌が立った。
表題の「風船」とは、男の生き様を表している。
同じ処に留まらず、常に新しきもの、人生の刺激を求め、自分の欲求に正直に人生を選択し、自らの意志で人生を切り拓いていく。
まさに、私自身の理想の生き様であり、私が思うところの男の生き様だ。
60に達しながらも、森雅之は惰性で生きることなく、やりたいことを貫き通す。
しかし、時にはそれは自分勝手な人生選択であり、妻や子供を振り回す。
それはそれで人間的欠点であるかもしれない。
いや、少なくとも、一般社会的観念からみれば、間違いなく無責任な男だ。
しかしながら、何かを選択する時、その背景には必ず何らかの犠牲というものが並存する。
その犠牲をあくまで認識した上で、敢えて森雅之は自分の希望する生き様を選択し、決行するのだ。
そういう男の生き様を徹底的に描いたという点では、本作はまさに男のための映画である。
だが、森雅之は誰よりも深く真剣に娘の幸せを願っている。
理屈で全てをうまく整理できるほど、人生や社会は単純ではない。
それを考えれば、結局のところ、自分が望む人生選択を行うことが一番大切なことではなかろうか。
子供は子供としてどう生きるかを自分自身で決めていけばいいし、妻も妻で自分が良いと思う生活を選択すればよい。
自分が良いと思って選択した人生ならば後悔もしないはずだ。
まさにこれらの考え方は、私の理想とする人生論であり、本作はそうした自分の人生観と見事に一致した。
妻も息子も、結局は一家の大黒柱である森雅之に依存して生きてきたにすぎない。
それを考えれば、60になった森雅之は、そろそろ自分の自由を主張しても、ばちは当たらないんではなかろうか。
そう考えたりして本作を観ていたら、とめどもなく深い味わいのある作品であることに気付かされた。
最後の最後で気付かされたのだ。
なんという味わいのある奥深い作品であろう。
というわけで、私は本作を川島雄三監督の最高傑作の一つに推したい。
(P.S.)北原三枝の衣装と、そこから伸びる脚線美、そしてクール・ビューティな雰囲気にやられました!