116.《ネタバレ》 ソロモンの冒頭からの登場によって、彼が最後に救うであろうことが読めてしまうことは、まったく問題ではない。
クレアが行きずりのペイトンをすんなり乳母にさせてしまうことも、まったく問題ではない。
なぜなら「ゆりかごを揺らす手」は、ペイトンによる”お手紙ビリビリ工作”、”マリーンのライターで浮気工作”、”お誕生日サプライズの場で赤っ恥工作”、”ソロモンの工具いれにオパンチュ工作”、”吸入器の中身ヌキヌキ工作”といった、陰湿さの湿度が非常に高い楽しいシークエンスをひたすらただ楽しむことに尽きる作品だからだ。
特にクレアの性格設定はきちんとできている。
「乳母って信用できないわ」といいつつ、3歩歩いたらモノを忘れるニワトリのように、道で出会った女性を乳母として家に入れてしまうヌケ感がきちんと描かれているからだ。
命にかかわるくらい大事な吸引器も、家のあちゃこちゃの引き出しに、乱雑な中身の間にテキトーに放り込んであるだけのヌケ感がきちんと描かれているからだ。(容量の残りの確認もこれでは把握しずらいだろうに)
子供をペイトンにまかせっきりで、自分は庭のお手入れや植物園でのボランティアに精を出し、3人でいるときさえ赤ん坊にかまわないのも、彼女が親として、子供を敵(ペイトン)から守ることがまともにできない、頼りない女であることを、しっかりと描きこんでいる。
だからこそ、産婦人科医はセクハラの相手としてクレアをターゲットにしたというプロットにも説得力が生まれる。
電車内でチカンでも、”しっかりしていない”、”甘い”・・・といったオーラが出ている女性ほど、チカンの対象にされやすいが、まさにクレアがそのタイプだろう。
ペイトンの工作にも、まんまと次々とひっかかっていく単細胞っぷりをひたすら楽しむ。それが鑑賞者のたしなみだと言っても過言ではない。
最後にペイトンが、それまでの地味な陰湿工作に反して、力技でカタをつけようとする姿勢についても、違和感はない。
手紙ビリビリ工作を植物園のトイレで行った際、ビリビリしながら次第にブチギレで、トイレのバッコンで壁やドアをメッタメタにし、バッコンのさきっちょが吹っ飛ぶほどたたきまくっていた様子から見て、ペイトンは
<ホントは力技でクレアをこの世から抹殺したかったが、グっとこらえて、工作活動に専念していた>
ということがありあまるほど分かる。本来は力技でいきたかったペイトン。
ペイトンが、温室の屋根を開けてクレアを抹殺しようとしたり、最後にクレアを屋根裏で叩き殺そうとするといった、力技を行使するときは
<窮地に立たされて、ワレを忘れた時>
であることもポイントだ。すなわち温室作戦のときは、家族が自分だけ置き去りにして旅行に出て自分の処遇を勝手に話し合われてしまうと知ったとき、屋根裏作戦のときは、クレアが自分がモット夫人であることを知ってしまい追い出されてニッチもサッチもいかなくなったときである。
力技で来た敵には力技しかないわけで、クレアがペイトンを窓から吹っ飛ばしたプロットについても、特に意義はない。
最後にひとつ。
ソロモンが、柵を立てててくれるように頼まれたときに一家にたずねたセリフ
「それは、家の人が外に出ないようにですか?それとも外の人が家に入らないようにですか?」
は、実に絶妙である。
実際ペイトンにトドメを刺したその柵は
★家の人が外に出ないようにする→ ペイトンに家庭を乗っ取られて、クレアが家を出るハメにならないようにする
★外の人が家に入らないようにする→ペイトンが家庭を乗っ取って、自分の家にしてしまわないようにする
という意味で、非常に有効な働きをしたからだ。
ソロモンの質問に対して、笑いながらクレアが「どっちもよ」と答えたが、ソロモンに功労賞を送るなら、ギア付きの自転車どころか、ブリジストンの20万くらいする電動機付き自転車をあげないといけないくらいだね。