79.《ネタバレ》 男は何故、のぞみにもう一度空気を抜いて欲しいとお願いしたのでしょう。空気が抜けることは、彼女にとっては死を意味します。彼は死に触れたかったのではないかと思うのです。「自分も君と同じようなものさ」空虚な心の内を見せる男。おそらくは、写真の中で微笑む女性が原因。彼女の死に際を彼が看取っていたとしたらどうか。写真の彼女にもう一度会うために、彼はのぞみを利用したと考えられます。のぞみはここでも代用品だった事になる。男の思惑など知らぬのぞみは、その息で恍惚の表情を浮かべます。それはそうでしょう。空気を吹き込まれるのは、命を注がれるのと同じなのだから。彼女にとっては、紛れも無い性交です。偽りの性器では得られぬ本物の悦びを感じる空気人形。自分と同じ幸せを相手に与えたいと思うのは当然のこと。それが愛です。男を“切った”のぞみは、何も悪くない。それにもし男が生きることを望んでいたのならば、助かることは容易だった。彼は自分の意思で死んだのです。何も知らぬ空気人形に多くのことを教えた男。潮の香り、ガラスのきらめき。美しいと感じる心、恋する楽しさと切なさ。限りある命の意味も伝えたのに、何故尊さを教えてやらなかったのか。あの男が憎いです。最後に男が教えたものは、愛する人を失う痛みでした。深い悲しみに耐える術を知らぬのぞみは、自ら男の後を追いました。方や燃えるゴミ、方や燃えないゴミ。2人の魂がこの先、交わることはあるのでしょうか。この作品はペ・ドュナに尽きます。外国人であるが故の“違和感”が良い方向に作用しました。役柄とは正反対、彼女の代わりになる役者は居ないと思わせます。本当に素晴らしかった。そのほかのキャストも概ね良好。ARATA、板尾、岩松、いいですね。ただ、星野真里の存在意義だけがイマイチ薄く、惜しいなあと。生と密接な関係にある“食”パートを担当した彼女が本筋にきっちり絡んできたら、より一層深みのある物語になった気がします。 【目隠シスト】さん [DVD(邦画)] 8点(2010-12-21 20:58:26) (良:2票) |
《改行表示》78.《ネタバレ》 人は誰も心に空白を持っている。ペ・ドゥナ演じる空気人形はその象徴である。しかし、空気人形はまさに人間の心の空白を埋めるために作られた心なき代用品だという事実が、皮肉な逆説性を帯びてくる。 ■空気人形は心を持つべき存在ではなかった。心は美しさを感じられるが、同時にはるかに多くの辛さ、悲しさも感じさせてくる。彼女に対して人々が求めるものは結局「自らの空白を埋めるもの」であったのであり、心持つ彼女がそれに答えるのは苦痛でしかなかった。そして逆に心持つものを心を埋める代用品にしようと腹を切っても結局そのまま死んでしまうだけであった。彼女の最後の息は他の人の心の空白を埋めていった。最後まで彼女自身は「人の心の空白を埋めるもの」でしかいられなかった。 ■ペ・ドゥナの演技は本当に素晴らしかった。あの「空っぽの中にわずかに心が宿ったような眼」は素晴らしい。いやらしさ・エロさを出さない裸というのも演技力のなせる技なのだろうか。圧巻 【θ】さん [DVD(字幕)] 9点(2010-08-05 01:06:58) (良:2票) |
77.《ネタバレ》 「空気が抜けるのってどんな感じ?」という質問は、「死んでいくのってどんな感じ?」と同義であり、空気を入れる行為は生命を吹き込むということ。映画内では明示されていないので、これは単なる想像に過ぎないが、ARATAの元恋人はバイク事故か何かで彼の目の前で亡くなったのではないか?死んでいく彼女を救うことができなかった彼の後悔と祈りが、「空気を抜き、吹き込む」という行為に及んだ。しかしそんな心の内を理解できるわけもない空気人形は、ただその行為の官能性だけを感じ取り、彼にも同じ思いを味わってもらおうと、彼の空気を「抜く」(「触ってくれんか?」と頼んだ老人の下半身に反射的に手を伸ばしたように)。しかし、空気人形は彼に生命を吹き込むことはできなかった。それは悲劇である。彼を燃えるゴミに出し、自らも燃えないゴミの中に埋もれた空気人形を見下ろし、「きれい…」と呟く星野真理は、冒頭の生命を宿した空気人形の姿と重なる。心なんてない方がいい。しかしそれは静かに育まれていくのだ。何と切ない愛の寓話。 【フライボーイ】さん [DVD(邦画)] 9点(2010-03-28 01:14:17) (良:2票) |
《改行表示》76.こりゃポルノだな。昭和時代、場末のポルノ小屋に入場するとよくこんな映画をやっていた。どっ暗い、人が普段眼にしたくない現実の一面を撮って何か意味のあることをやっている気になるというあのエッセンス。人によるだろうが、私は共感しない。生理的にダメ。途中から「もうわかったから早く終わってくれ」と願うばかりであった。 エンドロールを見て原作があの自虐の人だと知り納得。やだよ。 こんな話にはもったいないほどの映像の質の高さには唸りっぱなしだったけどね。 【アンギラス】さん [映画館(邦画)] 5点(2009-10-01 19:55:19) (良:2票) |
75.《ネタバレ》 傑作。死を学ぶことの恐ろしさ。生を学ぶよりも厳しい。セックスなんて、はなっから相手にしていない本編はまれにみる鮮烈さで死を際立たせる。生きていることには心は気づくけど、死の概念は誰も教えてくれない。白痴的な美しさのペデュナの殺人がとても美しい。 【JF】さん [DVD(邦画)] 8点(2015-06-22 15:03:39) (良:1票) |
《改行表示》74.え?ダッチワイフが心を持って動き出す?しかもビデオ屋で働きはじめてそこで恋に落ちる?いきなりの超展開に空いた口が塞がりませんでした。ここまで完全にコメディだと早とちりした私はゲラゲラ笑いながら観てました。 だが、この映画はそのままゆる~いコメディ映画では終わらない。板尾に正体がバレたあたりから急にサスペンスホラーになりだして、これは一体どうなるんだ?と、完全に物語に引き込まれている自分が居た。 岩松了が人形とヤル場面でまたコメディに引き戻され、人形に空気を入れたり抜いたりする場面はシュールすぎてどん引きと、なんとも忙しい展開が繰り広げられたが、要するにこれはペ・ドゥナを観るための映画である。と言い切ってしまっても良い。そのぐらい彼女なくしては成立しない映画である。 そして、これまでのシュールな展開が嘘のように美しい映像と、せつない余韻を残すラストはさすがの是枝監督作品と唸らされた。 【ヴレア】さん [DVD(邦画)] 8点(2013-11-04 18:16:03) (良:1票) |
73.《ネタバレ》 本物の人形みたいな、ペ・ドゥナの無機質にも近い透明感。綺麗すぎて切なさが増してしまう。愛を与えるばかりで、与えられることの無かった彼女。最後に見た夢が彼女の望んだ幸福かと思うと、哀しくてやりきれない。純一にはがっかりだ。空気を抜くのはノゾミにとっては死に繋がる恐怖。相手を恐怖に晒してでも快感を得る行為に愛があるとは思えない。こんなの、酷いとしか私には思えず、だから燃えるゴミに出されても同情なんかしない。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-09-29 00:20:01) (良:1票) |
《改行表示》72.《ネタバレ》 人形が心を持つというのはありふれたファンタジーだけど、ダッチワイフというのがおもしろい。 ペ・ドゥナは外国人なのに日本の映画に主役で抜擢されるだけのことはある。 他の映画で見て注目するようになったが、全然違う役どころをこなしていたので演技の幅も広いようだ。 キュートで演技もできて存在感がある上に、脱ぎっぷりもよく肝が据わっている。 それだけ揃うのは日本の女優でも限られてくるので、オファーも回ってきたのだろう。 日本人女優で見たかった気もするが、これを同等に演じることのできる女優がオファーを受けるとも思えない。 役柄も多少カタコトのほうが都合がいいし、キャスティングがどんぴしゃでハマった。 心を持ったばかりの無垢な子供のような姿が愛おしくなる。 レンタルショップの男との哀しい恋の顛末が切なすぎる。 心に空洞のある人たちに人形の吹き込む息が風に乗って広がっていくのが救い。 ヌードシーンは結構出てくるけど、艶かしいエロさというより清楚な感じさえする。 男がベッドで何度も空気を抜いたり入れたりした理由は、もう少しわかりやすい形でサジェスチョンしたほうがいいとは思った。 裏にある物語を見せないと、見る人によってはただの変態的行為に受け取られかねない。 また、ラストで過食症の女の「きれい」のひと言は、意図はわかるんだけど違和感あり。 細かく見ればいろいろ粗も出てくるが、ファンタジーであるということと、空気人形の存在感が優ってあまり気にならなかった。 【飛鳥】さん [DVD(邦画)] 9点(2013-01-12 00:17:02) (良:1票) |
71.《ネタバレ》 ノゾミ役のペ・ドゥナの人選。なぜに彼女に白羽の矢が立ったのだろうか そこがひじょうに気になるところなんです。なぜに、ペ・ドゥナだったのでしょうか まずは、お乳を出せる方という前提だったのでしょうか どうなんでしょうか そこんとこ。ひじょうに気になって仕方がないところなんですよね 人選に関するエピソードや裏話など、例えばどこかに存在するのであれば知ってみたいかな なんて思いましたね。ひょっとしたらば、うちらの知らないところで ≪実は最初のオファーは佐々木希に届いてた!ところが御乳出しに関して当然NGだった≫ だとか ≪そもそも、監督はノゾミ役をローラにやらせたくってごねていた≫ だとか ≪実はノゾミ役は当初、トリンドル玲奈に決まりかけてた人選だったが、トリンドルが共演の板尾創路を嫌ってNGだった≫ だとか、そんな裏話ってどっかに落ちてはいないもんなのかな ちょっと探してみましょう さようなら。 【3737】さん [インターネット(字幕)] 9点(2012-09-05 21:42:58) (笑:1票) |
《改行表示》70.《ネタバレ》 とにかくぺ・ドゥナの人形のような美しさが完ぺきだった。心をもったと自覚してからの笑顔にはそれほど惹かれないのに、能面のような表情のときの「のぞみ」があまりにも整っていて、この人が空気人形を演じたのは正解だったと思う。 ストーリーは心のどこかで感じている虚無感をうまく扱っていると思った。 空気で満たされる女人形、その人形で満たされる男たち、食物で満たされる女、メイドに満たされる男、警察官にニュースを話すことで満たされる老婆、娘に満たされる父とその娘、卵かけご飯に満たされる男…。何が満たすかの違いだけ。結局は人間も人形もそう変わらない。変わるのは燃えるゴミか燃えないゴミかだけだ。 空気を入れられても満たすことのできない「心」はきっと満ちることはないのだろう。心とはいつまでも欲深いものだ。 【おっちょ】さん [DVD(邦画)] 6点(2010-09-20 12:16:13) (良:1票) |
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《改行表示》69.《ネタバレ》 心を持つことのせつなさ、都会に暮らす人々の不安や悲しみはよく伝わったし、空気人形が製作者に会いに行って生きることや心の意味を少し理解するくだりなんかはグッとくるものがあった。 しかしなぜにあのオチに向かわなくてはいけなかったのかがよくわからなかった。 もしそれを理解し納得できたら点数上がるかもしれませんが現時点ではこの点で。 しかし板尾、演技うまいなぁ~。 【CBパークビュー】さん [DVD(邦画)] 7点(2010-07-04 00:55:56) (良:1票) |
《改行表示》68.《ネタバレ》 映画館で約一カ月空けて2度観た。ある意味「映画」の枠を超えた素晴らしい映画だ。 ストーリーを追おうとしたり、リアルさをどこかで求めようとしたらこの映画は全く奇妙な映画だろう。でも、この映画は全編ほとんど「詩」のようである。それは、人間という、儚く、自分では解決できない弱さをいっぱい抱えているこの存在に対する限りないオマージュを、空気人形の目を通して描いた、映像による「詩」である。 しかもなんとぺ・ドゥナは、チャーミングなのだろう!! 特に、ARATAに心を寄せるようになった直後の、あの抑えられないような表情は、音楽の素晴らしさも相まって何と美しいことか。ここには、「心」を与えられた者の歓喜がある。そして「ハッピー・バースディ」である。自分で自分のいのちの誕生を祝うのではなく、「他者」がこの自分の存在を祝福して祝ってくれている。思えばこれが「ハッピー・バースディ」の歌だ。そして、それがあのラストシーンの「息」につながっていく!是枝監督、脱帽です!ここには監督の「祈り」にも似た思いを感じないではいられない。 原作本も読んだが、それをリスペクトしながらよくぞこのような作品へと再創造してくれたと思う。きっと、見る毎に思いが深められると思います。 【ワンス・モア】さん [映画館(邦画)] 9点(2010-03-22 10:32:40) (良:1票) |
《改行表示》67.この映画は表現が多角的であり、色々な受け止め方ができると思う。 淡白ながらも静かで美しいBGMと映像が、じっくりと腰を落ち着けさせ、考えさせてくれる。本作の人々は生々しい姿を見せながらも、誰も声を荒げて感情表現しないし、誰も他人に悪意を向けたりしない。でも、善人というわけでもなく、どこか空っぽ。 淋しくて、苦しい彼らにとっては、心なんてない方が楽だったかもしれない。でも、ギリギリのところでとりあえず日々を生きるしかないのだ。 「あなたの代わりはどこにもいない」と、いつかそんな風に言われたい、思われたい、そして誰かを満たしたいと願いながら。 鑑賞後、ジワジワ来る。 【すべから】さん [映画館(邦画)] 9点(2010-02-19 10:41:05) (良:1票) |
《改行表示》66.「人形に心が宿る」という設定に対して、勝手にファンタジックであたたかな映画を想像してしまっていた。 これが是枝裕和の監督作品であるということを、忘れていたようだ。辛辣で生々しいテーマを独特のドキュメンタリー的手法で描き出してきた彼の作品が、そのような“癒し系”映画であるはずはなかった。 確かに、ファンタジックで心温まる部分もあるにはある。ただし、そういった部分は、淫靡で禍々しい物語の深淵によって覆い尽くされる。 恐らく、この映画の主演は日本の女優が表現するには、生々し過ぎて難しかったと思う。 そこに韓国人女優のペ・ドゥナを配したことで、彼女独特の愛らしさと、併せ持つつかみ所の無い空虚感が、まさに“空気人形”そのものであり、素晴らしかった。 これは女優としての優劣がどうということではなく、キャラクターに対しての国や文化を越えた「適正」の問題だったと思う。 そういう部分を見抜いて、奇跡的なキャスティングをみせた監督の力量は流石だ。 この映画における「救い」は、なんだったのだろうか。 “空気人形”が得た束の間の「生」か。誰しもが空虚を孕み、微かな部分でそれぞれが繋がっているという現実か。 穏やかな空気感の中で描かれる“実態”は、どこまでも禍々しくて遠慮がない。 正直、「好き」と断言できる作品ではない。 でも、この映画の世界観は、紛れもなく新しく、尚かつ世界の「本質」を捉えている。 「存在」すべき映画であることは、間違いない。 【鉄腕麗人】さん [映画館(邦画)] 8点(2009-11-30 10:49:10) (良:1票) |
65.《ネタバレ》 ◆なぜ「こころ」を持ったのだろう?と思いながら見ていました。それはやはり「愛されたから」ゆえ。しかし、「こころ」を持つことは望まれていない。◆登場人物は皆、渇いていて、満たされることを望みながら、実際に潤されることを恐れ逃げている。◆「代用品」で埋めることは、自らに渇きを残す。それは、不満足ではなく、それが実は「安心」なのではないだろうか。◆満たされること、次にくる「失う」ことへの、恐怖。◆彼女の名前「のぞみ」。「代用品」が「代用品」でなくなったとき、登場人物の「望み」が具現化されることにより生じる、悲劇の象徴なのだ。◆ペ・ドゥナの肢体と、ラストシーン・星野真理の横顔。本当に美しかった。 【ハクリキコ】さん [映画館(邦画)] 6点(2009-11-21 00:25:56) (良:1票) |
《改行表示》64.《ネタバレ》 とても胸をうつ映画だった。空気人形っていうのは、現代に生きる人々のある種の象徴であり、その実体であり、何のつながりもない登場人物たちの心無き心の純粋な在り様であり、、、まぁいろんな意味にとれそうだけど、そのメタ的な要素以上に僕はペ・ドゥナ演じる生き生きとした「空気人形」の姿に胸を打たれたのである。 僕が一番感動したのは、やっぱり、彼女の空気を抜き、吹き込むところかな。彼は言うのである。「空気を抜きたい」と。それは多分、空気を入れたいということ。空気を抜き、そして吹き込む。また抜き、吹き込む。その時、彼と彼女を捉えた充実感。これは何というコミュニケーションだろうか。彼女の心を捉えたもの。しかし、彼女がそれを手に入れてしまったこと自体がそもそもの悲劇なのであった。。 得られないことよりも、失うことの方が、つらい。 (川上弘美『これでよろしくて?』より) 『空気人形』は、心を持ってしまった空気人形のお話。空っぽなのに、心を持ってしまう、空気人形。心を持つって、一体どういうことなんだろう? 心って何だろう? 空っぽの心って? 空っぽって?? 空っぽな人間と空っぽな空気人形。でも、本当に空っぽなのは、空気で出来ている空気人形だけ。僕らは実体として空っぽなわけではない。もっと得体の知れない機能のかたまりとしてあるもの。でも、人間として、関係としてあるとき、人は空っぽになる、ような気がする。そして、空っぽに耐えられず、それを埋めたいと願う。 人は自分自身が空っぽなのではなく、ただ空っぽに捕まえられるのである。その空っぽを相手にして(格闘したり、哀願したりして)、どうしようもなく空振りしてしまう。この作品の登場人物達は、実は空っぽというよりも、ただ空振りしているだけなのではないか。だから、彼ら(彼女ら)に希望は、、、ある。それに対し、空気人形は失うことによって心が萎み、最後にまた空っぽになってしまった。。 過食症の女性はバットを振り続けていたからこそ、偶然にもボールに当てることができた。窓を開けることができた。そういう類の希望がこの作品にはある。僕らの中に潜在化した「心をめぐる物語」。それが登場人物達の心を通り抜け、空気人形によって語られる。つなげられる。この映画は、そういうファンタジーなのだと思う。 【onomichi】さん [映画館(邦画)] 10点(2009-10-09 23:10:30) (良:1票) |
63.《ネタバレ》 心を持った空気人形は、その空洞を満たしたかった。愛で満たされることが最もシンプルで最も満足を得られる方法だろう。でも、本来男性の自慰のために製作される空気人形はあくまで道具であり、行為を通して愛情が注がれることはない。また、自慰行為が纏う後ろめたさは、人形の自我を否定する。持ち主の板尾が「元の人形に戻って欲しい」と言ったのは、残酷だけどよく分かる。もっと残酷だったのは、レンタル店のお兄さん。彼は空気を抜いては吹き込む、を繰り返した。男性観賞者は同意すると思うが、しおれて蘇るぺ・ドゥナの肉体に性的興奮を覚えるのである。恋心を抱いた相手からも道具として扱われる…。そんな扱いを受けても、彼女はその本能からか、献身的な姿勢を失わなかった。自慰行為の後ろめたさを全身に引き受け、アイデンティティを無視され、それでも健気に献身する彼女は性の女神だ。人の業を引き受けて十字架に磔にされた有名人にイメージが被るが、こちらは数名の下半身欲求に救いを与えただけ。人は心を満たすことを希求する。でも、満たされている人は滅多にいない。空気人形の視線を通して、心の飢餓感と、満たされることの難しさを見せられる映画でした。ペ・ドゥナの物怖じしない演技が、重たいテーマを優しく湿り気なく見せてくれます。 【アンドレ・タカシ】さん [映画館(邦画)] 5点(2009-10-09 02:31:23) (良:1票) |
62.《ネタバレ》 印象が「TOKYO!」の一編、ミシェル・ゴンドリー監督の「インテリア・デザイン」と酷似している。モノ化する人間とヒト化する物体。どちらも途方もなく寂しいファンタジーだ。私にとって東京という街は特別である。渇いていて、クールで、美しい街。積年憧れてはいるが、住んだところでおそらく永久に融合できないだろうと思っている。この映画は私の憧れる東京のイメージそのものだ。身体に満ちているものが空気だろうが血液だろうが関係なく、人は誰かに使われて、いらなくなれば捨てられる。その結論はあまりに寂しいが、そういうものだから生きていられるのだと思う。観たときの気分かもしれないが、顛末があまりにも現実に正直で、非常に感銘を受けた。そしてなにより、ぺ・ドゥナがこんなに綺麗だなんて知らなかった。 【よーちー】さん [映画館(邦画)] 9点(2009-10-08 19:29:13) (良:1票) |
《改行表示》61.《ネタバレ》 前半の意外なほどベタな展開から、後半の展開は驚き。きっと前半が予告編の全て。後半からがこの映画の真骨頂。 空気を抜いて、また入れて、というシーンにものすごく官能を感じました。 特に関わり合いの無い人物たちが出てくるのだけれど、きっと彼らは何か満たされないものを持っていて、それを代用している象徴が空気人形なのです。 空気人形が息絶えた時、その人たちは本当の自分を直視できたのかもしれません。 それにしても空気人形が腹を裂いて空気を口から入れるシーンや、ポリ袋に死体を入れるシーンなんかはぞっとするほど良かった。哀しいほどの愛情。 ちょっと雑な観は否めないけど、ペ・ドゥナがそれを補ったかな。 詩がかなり重要なファクターのようです。 【Balrog】さん [DVD(字幕)] 7点(2009-09-30 23:41:55) (良:1票) |
《改行表示》60.《ネタバレ》 非常にシュールで哲学的でいろいろと考えさせられる作品でした。 この作品における「空気人形」とは、社会の中での自分の立ち位置、ポジションに埋もれながら惰性で生きている空っぽな現代人の象徴ではないでしょうか。そして心を持った「空気人形」は、われわれにそういった空虚な人生からの脱却を呼びかけているように感じました。心を持つことによって辛く哀しい状況に出くわすこともあるかもしれない、しかしながらそれこそが人生なのである・・・・・ しかしながら、この作品はキャスティングが完璧でしたね。ペ・ドゥナの不思議な魅力が「空気人形」役にズバリとはまっていました。しかしまあ、韓国のトップ女優がよくぞこの難しい役を引き受けてくれたなと思いますね。この役は演技力のある人でないと下品な感じになってしまうでしょうから。 岩松了のいつもながらの本当にしょうもないおっさん役も見事でした。そして、板尾創路のあのキャラはまさに日本映画の宝であるといっても過言ではないですね。 はっきり言って、万人受けする映画ではありません。嫌悪感を抱く方も少なくないと思いますが、観ておいて損はない作品です(ただ、デートとかにはちょっと・・・・・)。 【TM】さん [映画館(邦画)] 8点(2009-09-27 00:32:05) (良:1票) |