249.《ネタバレ》 この地下世界は私好み。ネオヴィクトリアン。SFのサブジャンル、スチームパンクってやつ。
あのシューシューと白くわきたつ蒸気、体に装着する器具に革ベルトが何連もついちゃってるとか、タイムマシン関連の計器がデジタルじゃなくって時計針で数字の間をユラユラ動くとか、セピアな色合いとか・・・もう、たまりません。
科学者たちの様子もどことなく科学者ではない感じが面白い。
過去から戻ったコールを寝かせた医療用ベッドでコールにかけてあげる毛布がクマちゃん柄で、医療現場っぽくないのが面白い。
実際のところ科学者軍団の紅一点(笑)ジョーンズが、実はただの”保険屋のオバチャン”であることが最後の最後のセリフ「I'm an insurance.」で明かされることで、そもそもあの科学者軍団は科学者ではなく、全員どこのどいつかも分からん馬のホネかもしれないというかなりキツい冗談設定だと分かる。
だからこそ、そんな科学者もどきな彼らが、コールを過去に送るたびにミスしまくるのも「当然」という説得力もあるし、さらにはそうやってミスを繰り返してくれることで、キャサリンがコールは本当に未来から来たのだと理解するに至る(戦争中に撃たれた弾の解析のエピソードや当時の戦争写真など)カギが作られるし、なおかつ見ているこちらも、あちこちに散乱したパズルが、じょじょに集まり完成していくワクワク感を高めてくれる。
ありがとう、怪しい科学者もどきの皆さんたち(笑)
それにしてもこの映画、SFという手法を用いた、壮大かつ切ないラブロマンス映画だとお気づきですか。
コール少年はあの空港で出会った金髪のキャサリンと目があい、そして笑顔で見つめられ、その記憶は彼の脳に痛烈に記憶された。
その後ウィルスの影響ですぐに人類は滅びるが、コール少年は何かのきっかけで生き延びる。
そして、これは私の解釈だが、生き残った人類はすべて、例の科学者もどきの軍団によって犯罪者であろうがなかろうが”囚人”として収容され、過去に送る要員(ボランティア)としてずっと管理されてきた。
つまりコール少年はあの空港でキャサリンと出会った後すぐに”囚人”として収容されて40過ぎのおじさんにまで成長する。
そして40過ぎのおじさんになったコール少年は、再びまた過去に戻され、そこで再びキャサリンと出会いつかの間の愛をはぐくむのだ。(しかも最後は死がふたりを分かつ)
これは偶然か?いやこれは運命なのだ。
コールにとって最初で最後の、運命の女キャサリン。
そしてコールは、これから未来えいごう、何度も何度も、45年前と45年後の世界を、何度も何度も何度も何度も往復し、そして何度も何度も何度も、愛する人との出会いと別れを経験するのだ。
こんなに切ない一生が他にあるだろうか。
彼は1996年でウィルスによる人類滅亡を生き抜いたその時から、過去に送られて最終的に死ぬまで、何度あの空港でのキャサリンの夢を見たのだろうか?
(1996年から2035年は39年間なので、それだけの長い間、何百回とあの夢を見たのではないか。)
コールが空港の夢を見る場面は劇中に何度か挿入され、そのつどコール少年の顔のアップも何度も出るが、ラストのシーンでコールが空港で撃たれて倒れた時にキャサリンと目があったコール少年の目には、涙がこぼれていた。
それまでの夢シーンではあえて涙目をふせられていたが、最後の最後に、その涙が映し出された。
「会ったことのないこのひとの様子を見て、なぜ涙が出るの・・・?」
コール少年は涙を流しながらそう思ったかもしれない。
でもそれは、彼女がコールの無限ループの中に生きる運命の女性だから。
中盤あたりで、安ホテルでコールがキャサリンに「I want to be stay here,this time・・・with you」と言ったセリフにあった「this time」は今回こそは」という意味で、それは再び未来の世界に戻りたくないというだけでなく、再び無限ループの中で彼女と別れを繰り返すのはもう終わりにしたいという思いもあったのではないか。少なくとも彼は自力でウィルス拡散を止め、1996年に留まり彼女と永遠にずっと一緒にいたかったことは間違いない。
しかし運命は・・・・
そこを心に刻みながら、あの最後の空港の場面で涙を流すコール少年を見たら・・・おのずと私の目からも涙がこぼれてきた。