3.《ネタバレ》 透明感のあるたい焼き屋の女性と、そのたい焼き屋に通いながら彼女自身に惹かれていく男性の物語。タイトルのように、しとしとと物語は進みます。たい焼き屋に通う男性、行助はその店の女性、こよみとふとしたことから二人でよく話すようになり、彼女?とは言えないまでも親しくなる。そんな矢先にこよみは事故に遭い、命は取り留めたものの、新しい記憶を留めておけない、毎朝記憶がリセットされるような状態になってしまう。そんな彼女との共同生活も始まり…という内容。
こよみは「世界」という言葉をよく使いますが、行助もこよみもそれぞれの世界があり、それらがゆっくりと混ざり合い、しかし浮遊というか、浮上しているような感覚はなく、なんだかだんだん空気が落ちていくような感覚はあり、まさに、静かな雨のようだ、と思いました。
決して多くは語られない、それほど大きく派手な場面になるわけでもない、だがじわじわと何かを蝕んでいくような感覚はあって、と同時に何かが育まれていく感覚もある、不思議な映画です。
まるで芥川賞に出てくる純文学のような映画でした。といっても、私はその手の小説は苦手なのですが。しかしそんな雰囲気で映画を楽しんでいた中、唯一らしくない、というか変な人間味を見たのが、記憶を繰り返し無くしていき、行助のことも度々忘れて記憶のアップデートがされないこよみに対して苛立ちをぶつける行助のシーン。彼女がそういう状態ということは承知して彼女といることを決めたはずなのに、急に子供返りしたかのように駄々をこねる彼には驚きというか、なんだかショックを受けた。正直かなり引いてしまった。
毎朝同じセリフを聞かされ、同じように説明し、毎回嫌いなものを伝えないといけない。それってやはり重い負担なんですかね。その点で行助がああなってしまったというならちょっと理解できない。昔の彼のことは覚えてて、、、というのも気になることではあるだろうが、こよみは今自分のそばにいてくれてるんだからそれほど思い詰めることだろうか。
なんて言いながら、私も好きな人のことではそんな理性が吹き飛ぶくらい自分でも訳のわからないことになってしまうので、あまり偉そうに言えません。あくまでこれが他人事で、第三者として言えるから余裕を持って言えるだけ。
自分も、冷静な第三者から見ればだいぶ愚かなんだろうなと、行助と自分を重ねて自分を少し戒めました。でもどんなに愚かでも格好悪くても、本当にその人のことを考えて想い続けるための、心の栄養には少しなりました。
また明日以降も少し良い自分になれますように。そんなことを考えた映画でした。