11.「ego ?(イーゴゥ?)」
と、海洋学者を演じる藤竜也が独特の言い回しで食い入るように応える。
このワンシーンを迎えるとついつい真似て声を被せてしまう。
個人的にフェイバリットな映画において、そういうことは多々あると思う。
つまりは、世の中では圧倒的に酷評され、石井竜也という“創造者”にとってかなりマイナス要因の強い分岐点となってしまったこのSF映画が、僕は個人的に大好きだということだ。
何年ぶりかに鑑賞しなおしてみて、そのことを改めて思い知った。
岩井俊二が用意したファンタジックなベース(原作)に乗って、石井竜也というクリエイターの趣向がある意味独善的に繰り広げられている作品であることは間違いない。
はっきり言って、その趣向にそぐわない限り「陳腐」だとしか感じられないことは致し方ないのかもしれない。
決して大衆にはウケないという必然性を備えていることを今はよく理解出来る。
でもだからこそ、生まれて初めて買ったCDが米米CLUBの「君がいるだけで」で、小学校の文集の「尊敬する人」の蘭に「石井竜也」と書いた“信者”にとっては、唯一無二の作品であることも改めて必然だと思った。
前述の藤竜也をはじめとし、俳優として駆け出しの浅野忠信、トレードマークの長髪が若い江口洋介、色々な意味で感慨深い裸体を披露する吉野公佳と、キャストは魅力的だ。
そして、岩井俊二の原作から導き出されたプロットは、充分に理にかなった空想科学であり、そのファンタジックでもある世界観は石井竜也の創造性にとてもよくマッチしていたと思う。
まあこれからも再評価されることなんてないのだろうけれど、石井竜也、岩井俊二、浅野忠信、そして原案にはよしもとばななも携わったらしいこの作品を、「俺が好きと言わずに誰が言うのだ?」と勝手に使命を持ち続けようと思う。