74.《ネタバレ》 物語は終始一貫して センチメンタリズムに陥ることなく淡々と進む。
ヒーローが戦場を駆け回るでもなく、感動的な音楽で泣かせるでもなく、
ただただひたすら淡々と進む。
ほとんどモノクロに近い、色褪せたセピア色の画像と相まって
どこかソ連やポーランドのモノクロ映画のやうな趣だ。
一応の主人公は、渡辺謙が演じる栗林中将と
二宮和也(自然で上手かった!) の一兵卒・西郷なわけだが・・・
敵の銃弾・火炎放射器によって、自らの手りゅう弾・小銃によって
将校も 名も無い兵士も同等に何の「映画的溜め」もなく
あっけなく死んでゆき、観客に過度の感情移入を許さない。
だがしかし、そんな突き放したストイックな映像の中に、
イーストウッド監督の兵士たちに対する限りない優しさと敬意を感じるのです。
物語の半分くれいは薄暗い洞窟の中、
前は米兵・後ろは絶海で退却しる場所もないといふ
救いようの無い閉塞感に満ち満ちているヘビーな映画なので、
涙もしないし 決して人にも奨めませんが、
イーストウッド御大の突き放した優しさ故に、何度もまた観たいと想ふのです。
恐らく今の日本で撮ったら・・・
戦争に無理くり引っ張り出された「市井の人々」の悲劇として
ベタベタの音楽をバックに、情感たっぷりに描かれるだろう。
が、イーストウッド監督は反戦でも好戦でもなく、センチメンタリズムを排し
「硫黄島を一日でも長く死守することは、
それだけ敵の本土空襲を食い止めることになる。」といふ
司令官の信念の元に闘った「兵士達」を淡々と描く。
現状で出来ることに最善を尽くし、全ての責任を負った人、
どうしても家族の元に帰りたいと願う人、千人針を置いて逃げ出す人、
家族の写真を握りしめて手榴弾のピンを抜きヘルメットに信管を叩く人、
勇ましい玉砕の途中で日和って死んだふりする人、
絶望的な戦況でも馬を愛し敵の負傷兵看護する人・・・
描かれた全ての兵士達に対するイーストウッド監督の視線は、ただただ優しい。
「荒野の用心棒」やら「ダーティーハリー」・「アウトロー」やら
ガキの頃から大好きだったイーストウッド御大が、こんな良い映画を撮るなんて・・・
こんな重いメッセージを 自分ら日本人に差し出すなんて・・・
もし当時の自分が知ったら、ぶったまげるだろう。