2.ストーリーテリングの技術とは常に進化していくものであり、発表当時には斬新だった名作も、時代と共に陳腐化していくことは避けられません。シェイクスピアもその例外ではなく、現在の目で見ると突飛な展開、薄っぺらな人物描写が気になります。
『シンベリン』を原作とした本作は、舞台こそ現代のニューヨークらしき都市に置き換えてはいるものの、内容や固有名詞、言葉使い等は原作そのままであり、盛り付けを変えることにより古典文学の印象がどう変わっていくかという点が興味の対象でした。この点、脚本・監督を担当したマイケル・アルメレイダ(過去に現代版『ハムレット』にも挑んでいる)は驚くほど何の工夫も施しておらず、残るのは違和感のみでした。現代劇でありながら時代劇調の台詞を登場人物に喋らせることの違和感をどう中和するか、現代の観客には受け入れられ難い突飛な展開にどうやって説得力を持たせるかという努力をまったくしておらず、古典の悪いところがドバっと出てしまうという結果に終わっています。古典の舞台を現代に置き換えるというそもそものコンセプトがまったく活かされておらず、これならば、年代設定までを原作に合わせた時代劇として製作した方が、まだマシな作品になったのではないかと思います。
数年前にレイフ・ファインズが監督・主演した『コリオレイナス(邦題:英雄の証明)』が古典と現代劇の折衷に見事成功したことと比較すると、本作は完全な失敗と言わざるをえません。