33.《ネタバレ》 ツーリストではなく、トラベラーであり続けたキット。ほとんどセリフもなく、字幕もない後半こそがこの映画の見どころだと思います。一組の夫婦に男がもうひとり絡んで、男女関係云々という前半は、本題を表現するための前フリのようなもので、ストーリーがどうの、と論じる類の映画ではありません。 アメリカに帰れば、タクシーの中で大使館員とタナーを待っていれば、普通に生きることさえ難しい状況からは逃れられますが、キットはその選択肢に背を向け、どこかへ去ってしまいます。私たちが「快適」とする白人社会に戻ってしまえば、キットにとってそれは「ふりだしに戻る」ということだったんでしょう。山のような荷物を抱えて移動する「ツーリスト」から、トランクひとつの「トラベラー」となったキットは、物質第一主義の欧米文化に対する皮肉の象徴なのかもしれません。豊かさの象徴である山のような荷物=しかしそれは生きていく上でのお荷物=そんなものを生み出す欧米文化、ということでしょうか? その欧米文化の副産物が差別社会。 オープニングのモノクロの映像には、発展していくニューヨークの様子が描かれ、快適、快楽、経済的発展、物質的な豊かさをイメージしたシーンが、都会的な雰囲気のジャズとともに流れます。そして、豪華客船から小さなボートで上陸した先では、一転して土着的な民族音楽。オープニングが終わり切らないここまでのシーンだけで、欧米と対極する文化圏が舞台であることが強調されています。たくさんの荷物を、家のない貧しい子供たちに運ばせるアメリカ人は、大きな荷物から帽子を取り出し、カメラで写真を撮り、スピーカーから西洋音楽が流れる酒場で、ドリンクを飲みながら子供たちに靴を磨かせるなど、アメリカの富裕階級とアラブ圏の当時の事情がくっきりと描かれています。 ラストシーン、タクシーから消えたキットは、最初3人で立ち寄った酒場に現れます。店内にはやはり西洋音楽が流れ、新聞売りの子供など、店の様子は変わらない。変わったのはキットの心。その心が「迷ったのかね?」「人には無限の機会がある」ことを、無言のおっさんから感じ取ります。おっさんの声はキットの感情そのもの。映画はそこで終わりますが、キットがその後もトラベラーとして生きていくだろうということは容易に予想できます。 グランドホテルから出てくるタナーが欧米文化の象徴、かつてはその文化の中で生きてきたものの、別の生き方を模索するキット。この二人のコントラストが、差別社会への批判なのだと思います。オープニングとエンディングを見比べると、この映画の意図がよくわかりますね。 後半の砂漠も、俯瞰的に眺めている私たちにとっては「美しい」風景ですが、そこで生きるアラブの人々にとっては日常の当たり前の風景。「ほ~ら、きれいな景色でしょ」と見せるだけでは、まさにただのツーリスト的映画になってしまいますね。静けさ・美しさと同等の激しさ・重苦しさが伝わってくる、それがこの映画の価値だと思いました。 それにしても、男と女の関係をこれほどまでに描き切ることができるベルトルッチ監督の手腕に、ただただ驚くしかありません。「シャンドライの恋」のラストシーンの衝撃も、なるほど、この監督だからこそ作れたんだと、改めて納得です。 【ramo】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2017-09-12 21:37:49) |
32.《ネタバレ》 この美しい空を見上げてごらん、この茜色の大空はね、僕たちを守ってくれているんだ、宇宙という無限の虚空から――。結婚生活10年目にしてお互いの愛の微妙な擦れ違いに悩む夫婦キットとポートは、若い共通の友人ターナーを伴ってアフリカの大地へと降り立つ。「無計画こそが私たちの計画なの」と、原生的な生きるエネルギーに満ち溢れたアラブ人たちに混ざり、広大なサハラ砂漠をただ刹那的な愛を求めて彷徨うそんな夫婦の姿を雄大な大自然を背景に描き出す、ある愛の物語。赤を基調とした暖色系の美しい映像と情熱的で壮大な音楽(全盛期の坂本龍一教授の生み出す旋律が胸に染みます)とで、この倦怠期の夫婦が若い男を媒介に冷めた愛を再び燃え上がらせようとするというなんてことないストーリーなのに、なんだか哲学的で深い映画に仕上げてしまうところは、さすがベルナルド・ベルトルッチですね。とにかく砂漠の映像が美しいです。風が吹けばそこら中に砂砂砂、市場に行けば肉にたかる蝿蝿蝿、アラブ人はみんな髭髭髭、このひたすら濃ゆ~いのに何故か知的で高尚な雰囲気を漂わせる美しい世界観には、素直に酔いしれることが出来ました。ただ、そんな映像で綴られるストーリー自体はあまりにも淡々と進むため少々退屈なところはちょっぴり残念でしたね。それでも、このどんなに情熱的な愛であろうと崇高な人間の魂だろうと最後は何もかも無機質な砂へと呑み込まれて無くなってしまうんだと言わんばかりの無常観に必死で抗おうとする人間たちの根源的な苦悩を、ラクダが闊歩する雄大な砂漠のなかに象徴的に描いた、いかにもベルトルッチらしいなかなかの良作でありました。 【かたゆき】さん [DVD(字幕)] 7点(2014-04-24 08:46:40) |
31.《ネタバレ》 「自分」のない人間を扱うのが好きなベルトリッチらしい作品。風土があって、文化があって、人間は品位を保つ。文化的に成功を収めた二人の夫婦が「文化」のない砂漠に来たら、どうなるか?ベルトリッチはそこで夫と死別した女性の転落をきれいな音楽の中で描く。この女性に体当たりの演技をしたのは、アカデミー(ノミネート)女優のデブラウィンガー。アクの強い旦那の強い理由は、妻への強い愛だった。それが死別のときに分かってても、妻であった彼女は糸の切れた凧のように、砂漠の放浪の民の男性に弄ばれてしまう。当然、放浪の民にも女性たちはいる。そこの女性たちの軽蔑のまなざしの中、彼女は追いだされる。そしてボロボロになって、話を聞きつけた現地の同国人が助けに現れる。最後、無口な老人の表情が、人生は無限ではない、その時々を一生懸命生きればよい、いたずらに自分を貶める必要はない、と語るのだった。自分はそう解釈しました。自分もできれば、生まれ育った国や土地を離れたくない。しかしそれがままならない時は、もみくちゃになってでも生きねば、と思う。ベルトリッチが空っぽ人間を責めるのを止めだした頃の作品です。 【トント】さん [ビデオ(字幕)] 7点(2014-01-21 05:12:23) |
30.10年目の夫婦の物語であり、戦争の熱狂のあとの物語でもある。もう一度ヒリヒリする時間を持ちたい。いつも空に覆われて、保護されてて、何かと剥き出しで対峙したい。そんな前提で、精神的な疲れから肉体的な病気に至る夫婦の旅になる。彼らには、何らかのリフレッシュか決定的な破局かを期待する旅だった。で旦那は腸チフスという決定的な破局以上のものを手に入れてしまうんだけど、それは同時に愛の再確認の場でもあった、って。字幕のない放浪が続き、砂漠ってのは紫禁城と違い歴史のまったくない場所。でもやはり同じ場所に帰ってくるの。ここを撮りたかったのだろうな、と思わせる。夫婦互いのじらし合いが、ずるずると拡大し大袈裟になっていって、浮気になり、別行動になり、そして…、というドラマ。彼らの空虚感を共有できるかどうかが、感動の分かれ目でしょう。 【なんのかんの】さん [映画館(字幕)] 7点(2013-10-23 09:52:42) |
29.映像美。ポートの死をはさんで前編後編に分けられるとしたら、前半の饒舌に比べて後半のなんと寡黙なことか。そして後半はいやというほど茫漠とした砂漠が描かれる。まるで御伽噺のようでもあり、素晴らしい映像世界。 【Balrog】さん [DVD(字幕)] 7点(2011-05-25 13:56:32) |
28.これって「愛と哀しみの果て」+「パリ、テキサス」の劣化バージョンにすぎないんじゃ・・・。みんながボソボソ喋っているだけで、話が少しも前に進まないので、見続けるのが非常に苦痛だった。 【Olias】さん [DVD(字幕)] 4点(2006-05-02 22:04:55) |
27.《ネタバレ》 音楽がストーリーと合ってない。もっと客観的でさめた感じでいいし、もっといえばあんまり無い方がいい。ことさらに人物の心情を音楽ばっかりで盛り上げすぎ。 ポートが映画の最初から人生に疲れていること(働きもしないのに)、何かを恐れていること、定住したくないこと、無計画なこと、これにはなにか原因があるのだろう。明らかにおかしいのは夫の方で、キットが「自分は夫のお荷物」と言うのは思っていたのと逆のことを言ってしまったので、ポートこそがキットのお荷物になっている。これは下世話に考えると「ポートはEDである」というのが自然なのだが。ベルトリッチの言う「カミュの読みすぎ」よりも「健康なのにEDになった」→「寝室を別にした」→「妻が他の男と寝ないか不安かつスリリング」というのが自然だが。 ポートがやたらに「僕にとって愛とは君に対する愛」だの「君の為に生きてきた」だの歯の浮くようなことを結婚10年の妻に向かってしつこく語るが、男性がこういう行動に出るのは肉体的な満足を与えられないからとしか思えないが。しかしサイクリングの野外Hシーンでそれも打ち消されたかに思えるが、その最中のキットの冷静さはいったいなんなのか。現地の男とのHの時とは全然違うんだけど。「EDになった」→「肉体の衰えを感じた」→「死が近づいたと感じる」→「神様を信じられないので、死んだら無になってしまうと思うと怖くてしかたない」→「防護壁である空の向こうは無である」? キャラバンに合流した以降のキットは、まさに「愛するお荷物」から解き放たれたように思える。文字通り小さなトランク以外の「お荷物」は捨ててきたし。健康なうちから「死の恐怖」に取り付かれていた夫は、愛していても「お荷物」だったんだと思う。お金の心配も仕事のストレスも家族関係のストレスも戦争の心配も病気も設定されていないのに「死の恐怖」に取り付かれるポート、私はこの夫の「鬱」のそもそもの原因はED以外にはあり得ないと考える。 しかしあの下品な白人のおばさんが言うように、夫婦の中でどんなに複雑な事情があったとて、この二人はハタから見たら「あのステキなご夫婦」に違いないのである。このセリフこそが最大の皮肉であり、観客を現実世界に引き戻すカギだ。 【パブロン中毒】さん [DVD(字幕)] 7点(2006-02-26 20:23:25) (良:1票) |
26.なんともいえない、やりきれない沈んだ気分になります(単に暗いという理由ではないんですが)。あんまり何度も観たくない。機会があり映画館で観たものの実のところ、できればコレは観たくなかった。観てしまった後では、絶対忘れられぬ作品になってしまいましたが。心でなくもっと奥、丹田の辺りがズシリと重くなるような、困った映画です。決して好きではないので、点数が難しいのですが。7点で。 【タマクロ】さん [映画館(字幕)] 7点(2005-12-02 12:38:18) |
25.俗物を軽蔑しながら誰よりも俗物な自称・芸術家夫婦の自爆旅行記。不毛の砂漠を舞台にした不毛の夫婦関係でベルナルド・ベルトルッチが描くのは、冷酷で強大な自然が如何に美しく、か弱くちっぽけな人間が如何に愚かかということ。タイトル的には“The Sheltering Sky”よりも“The Isolating Desert”という方が相応しいです。この流浪の物語から何か哲学的な命題でも導き出せれば面白いのかもしれませんが、私もどう受け止めて良いものやら解りませんでした。唯、映画後半のテーマは「後悔」だったんでしょうかね。「後悔先に立たず」とは良く言ったもんです、5点献上。 【sayzin】さん [CS・衛星(字幕)] 5点(2005-11-15 00:07:26) |
24.これに関しては、淀長さんに感謝です。 芸術家同士が自分たちの愛を試すために、若い男を連れて旅に出る。 男があっけなく死んだ後、女の喪失感。 哀しい、哀しすぎる。 失って改めて気付くパートナーの大切さ。 そして心にぽっかりと空いた穴。 それがあまりにも深いが故に、女の人生はあのような展開に... 圧倒的に美しい映像とともに、哀しさが迫ってきます。 いや、悲しみを伴えばこその、あの美しさなのでしょう。 当時淀長さんはとある女性誌にこう書きました。 「今付き合っている男を連れて行って、退屈だと言ったらその男とは別れなさい」 そんな文章もあって、見栄も張りつつ一緒に映画館に足を運びました。 見栄も時には新しい芸術との出会いのきっかけか。 淀長さんありがとう。 【tj】さん [映画館(字幕)] 9点(2005-11-01 06:27:03) (良:1票) |
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23.正直こんな人生送ってみたいんですが。どこ見てんじゃ自分。こんなパートナーに恵まれてあーた。・・・倦怠期も知らずに語るなと言われれば、「はいすみません」と言わざるを得ませんが。(退散)モロ出しが出てくる映画と思い出せず見てたんで最初は驚きましたが、2人のやさぐれた関係を上手く表してるかも。母ちゃん家族の目の前で着替えしないでくださいみたいな。砂漠の例のセクスーシーンなど見てられず・・・服も着たままとりあえず体を重ねる2人。両親のいけない所を見てしまったような気持ちになり「見てしまってごめんなさい」と口走りそうなセックルシーンも初めてでした。【編集註:実在の人物とは一切関係がありません】後半は、現実というより奥さんのトリップ状態も含まれるんでしょうきっと。この奥さん、きっと同じこと繰り返すに違いない。ちなみに本筋とはあまり関係がないと思うのでネタバレなしで触れますが、ラストシーンの老人のような事を言う人間は嫌いです。老人であることを差し引いてもなあ。「一生にxxxx万リットルのビールを飲む」だの「切手をxx回なめる」だの、ちゃぶ台投げたくなるだ。(例えがだいぶ違うし)人間、明日逝っちゃうかも知れないから例え10歳までの命など余命宣告を受けたりすっかり老人になってしまったりしても、「砂漠みたいに漠然と希望」があるから人間何となく生きられちゃうんじゃないの。だったら今すぐ息止めて逝けばと思いたくなってしまう。失礼。この大嫌いは、映画の大嫌いとは全く関係がありません。むしろこんなセリフを聞かせてくれて良くやった。感動した。 |
22.モロッコ旅行へ出掛ける前に、気分を盛り上げようと思ってみたらかなり行きたくなくなりました。実際行っても、なるべく生ものは食べないようにしました。気をつけていたにもかかわらず、結局食中毒にかかってしまいましたが、あそこまではひどい所じゃないです。文句を言いつつも、モロッコの風景は本当に素晴らしいところが多く、映像もうまくそれを表現できていると思います。 |
21.うーん、疲れた、いろんな意味で。マルコヴィッチの知的で色っぽい雰囲気はわるくないけど。 【おばちゃん】さん 6点(2004-07-04 22:32:55) |
20.淡々と砂漠のシーンで動きが少なく、寝そうになりました。まだまだ甘いですね。 【★ピカリン★】さん 3点(2004-06-19 16:29:51) |
19.だるい!マルコヴィッチの絶叫で一瞬我に帰るもまたベルトルッチの欠伸な映像に引き戻され沈没。坂本が思った程上手く使われていなかったのも残念。 【ゆうはな】さん 4点(2004-03-20 19:52:32) |
★18.いい意味でも悪い意味でも、人間ってこういうもの。 【もちもちば】さん 6点(2004-01-18 19:09:43) |
17.二人が虚空の砂漠の中で抱き合い、とどまらない痛切な孤独感を知る。利己から無限なる恐怖を駆り立たせられた時、深く共鳴できる人は存在するのだろうか。チフス病の昏睡から目が覚めて「お前にもあの恐怖はわかるだろう」というシーンがある。モノローグからダイヤローグへと相互関係が生まれ、彼の終焉のカタルシスとなった。彼女を隣に彼は何処へ意識を向けていたのだろうか。 「シェルタリング・スカイ」の原作本が絶版されていて、とても残念でしょうがない。 【ぼん】さん 8点(2004-01-13 19:16:09) |
16.映画館を出てしばらくしてからじわっと涙が出てきました。感動とか悲しいとかじゃないんだけど、「人生ってっこんなもの」って感じがせつない映画。個人的に砂漠の出てくる映画って好きなんですが「砂漠モノ」のなかでもこの映画の映像はピカイチですね。はずかしながら、本作品ではじめてヴィットリオ・ストラーロの名前を知ったんですが、映像というものを前より意識して映画を見るきっかけになった映画なので10点つけました。でも映画館の映像の印象が強すぎてビデオであまり見直す勇気がないんです。 【ETNA】さん 10点(2003-12-24 18:02:07) |
【虎尾】さん 5点(2003-12-13 00:19:50) |
14.砂漠を舞台にした映画は好きだ。 ちょっとした過ちで永遠に失った愛する人。失った後の、埋めようのない欠落感。これを表現する舞台として、砂漠の「渇き」感がぴったりしっくりくる。 ベルトリッチが映し出す豊かな色彩、坂本龍一音楽のドラマ性かつ包容力。印象に深く焼きつく映画だ。 美術映画には好き嫌いがあると思うが、寡黙に耐えられる方は試してみる価値あり。寡黙だがドラマティカルで情熱的。ベルトリッチは人間の「衝動」を鮮明に描き出す監督だと思う。 詳しくはこちらのブログで→http://escargot1.exblog.jp/1244669/ 【よしの】さん 9点(2003-11-22 14:42:59) |