20.「容姿端麗」
それは映画スターにとっては最低条件とも言える素養の一つであるわけだが、そうであることが当たり前過ぎて、俳優としての評価においてしばしばないがしろにされがちだ。
その形容がもっともよく当てはまり、ハリウッドにおいて長くそれを担ってきた映画スター、それがキアヌ・リーヴスだと思う。
正直なところ、彼の出演作は当たり外れが激しく、そのビジュアル的な秀麗さのみが際立ってしまい、「キアヌ・リーヴスが格好いいだけの映画」という揶揄が生じる作品は数多い。
ただし、まず言及したいのは、「格好いいだけ」という感想を20年以上に渡って映画ファンに言わせているキアヌ・リーヴスという俳優の在り方は、圧倒的に正しいということだ。
キアヌ・リーヴスの出世作「スピード(1994)」から22年。彼はもう51歳である。
それでも尚、観客に「格好いい」という第一印象を持たせ続けていることは、スター俳優としての絶対的な資質と絶え間ぬ努力以外の何ものでもないと思う。
僕はただそれだけでも、この俳優は「エライ!」と思えるし、信頼できる。
主演俳優の世間的評価への不満が先行してしまったが、この最新作のキアヌ・リーヴスももはや当然のように格好良い。
今作においては、決して「キアヌ・リーヴスが格好いいだけ」の映画ではない。
アクション映画としての格好良さとユニークさ、そして主演俳優を筆頭としたつくり手の意欲に溢れている。
怒らせた相手(主人公)が殺人マシーンだった。というストーリー展開はこの近年特に多発されていて、ジャンル映画としての一つの流行りのようになっている。
今作についてもストーリー自体は、その流行りのままで、特別なオリジナリティがあるわけではない。
ただ主人公が織りなすアクション性には独創性があり、フィクショナルな映画世界にありながら圧倒的な説得力が備わっていた。
ありふれたストーリーテリングの中で、登場人物たちが生きる「世界」の設定の細やかな作りこみが、多くのこの手のジャンル映画とは一線を画する仕上がりを見せているのだと思う。
そして、何よりも、主演俳優の映画映えする類まれな風貌と、役づくりのための鍛錬が、「ジョン・ウィック」というニューヒーローを生み出したのだろう。
時折伝わってくる海外ゴシップで、一人寂しく路上で佇んでいたり、悪質なストーカー女による迷惑を被ったり、激太りしたりと、不憫な私生活の様を見聞きする限り、キアヌ・リーヴスという人は決して世渡り上手ではないのだろう。
でも、不器用ではあるが、映画人として誠実であることは、作品自体の善し悪しは別にして彼のフィルモグラフィーから伝わってくる。
そんな中でまさしく起死回生の一打となった「ジョン・ウィック」。続編の撮影も順調な様子。大いに期待したい。