15.《ネタバレ》 先月たまたま横須賀に行った関係で改めて見た。
最初に見たのがいつか不明だが、閉塞作戦で「廣瀬中佐」のメロディが流れるとか、「おいどんに惚れちょるからな」など憶えていることが多い。東郷=三船は当然として、上村中将が藤田進、乃木大将が笠智衆というイメージも個人的には定着していて、この映画からかなり擦り込まれたものがあったらしい。
内容的には「運のいい男」から始まり、ツアイスZeissとか下瀬火薬など関連要素が漏れなく盛り込まれ、日本海海戦に関する標準仕様の物語ができた印象がある。ただ自分に関していえば史実より先に、この映画の流れを標準仕様と思い込んでいたようでもあり、製作協力の「三笠保存会」の影響も大きかったかも知れない。ちなみに「坂の上の雲」「海の史劇」もその後に読んだ。
戦後の日本社会では、戦前日本を問答無用で貶める風潮があって辟易させられたが(今もあるが)、この頃はまだ自国の歴史を肯定的に捉える気分が残っていたようで、ナレーションの「わが連合艦隊」という言葉が心地いい。戦争の悲劇の面に関して、主に陸軍の方に振っていたのは全体構成として妥当と思われる。
一方で、敵に対する敬意や人としての尊重、また必ず生きて帰るという広瀬少佐の決意などは現代でも受け取りやすい要素と思われる。兵が無駄に死んだと思えば責任者宅が襲われるのは乃木大将や小村外相の件でもあったことだが、こういう慣行?は国民感情の表現として有意義だったのではと思う。
物語の流れとして、当初は日露戦争の全体像を扱ったようにも見えていたが、日本海海戦の映画であるから奉天会戦や講和交渉などは省略し、最後は東郷元帥の人格を讃えて締めている。この後も第一次大戦や国際連盟などいろいろ経過があったわけだが、この映画としてはアメリカの脅威を指摘した上で「勝ったことを恐れる」と述べ、太平洋戦争の敗北に直接つないだ形に見えた。
そういう後の心配は別にして、この海戦がほぼ完勝だったのは変えようのない事実であり、安心して見ていられる映画ではあった。何かと古風な印象もあるが明治時代の話なのでまあいいことにしておく。
以下個別事項
・艦船映像はさすが円谷特撮と思わせる。戦艦や装甲巡洋艦といった主な軍艦以外に、駆逐艦が魚雷を発射する大型模型もあって目を引いた。「東郷ターン」のあと、遠方に縦列の敵艦隊、手前に舷側が見える状態で、海面に水柱が上がり始めたのはこの海戦らしい映像だった。
・上村中将は情けない姿を見せていたが、同様に東郷大将が取り乱す場面もあり、将たる者が背負うものの重さが表現されている。菓子屋のエピソードは印象的だった。奥様も立派な人だ。
・宮古島の「久松五勇士」の話は当時どれだけ知られていたものか。舟の名前が「尖閣丸」だったのはどこかに喧嘩を売るつもりかと思ったが、この映画の頃はまだ難癖つけられていなかったので、単に昔から尖閣周辺が漁場だったからというだけかも知れない。
・島根県に流れ着いた死者に関して「縁があったから来た」という発想はよかった。
・敵艦隊について「大艦隊の航海記録としては歴史に残る」と自分でいえば自画自賛のようだが、海戦後に東郷大将が賞讃したように実際そうだと思われる。途中で結構死人も出ていたらしく、苦労して来たのにいきなり撃滅されてはたまらない。御苦労様というしかない。
・敵艦の渾名(コードネーム?)のうち個人的には「ゴミ取り権助」が気に入っているが、実物が映像に出て来ないのは残念だ。その代わり、艦名のもとになったモスクワ大公ドミトリーの歴史映画を本国に作ってもらいたいと期待している。向こうではモンゴル勢力を負かした英雄だが、日本は簡単にやられたりしない。