4.《ネタバレ》 監督のマーク・ウェブは「スパイダーマン」の新シリーズの監督に抜擢されるだけのことはある。既存のルールや公式には従わずに、自由自在・変幻自在に演出を試みて、自らの豊かな才能を発揮させている。いったり来たりと目まぐるしいのは男女の関係でもよくあることであり、カレンダーどおりにストーリーを展開させない演出は上手い。
ストーリーは多くの人が経験あるような事柄が描かれており、共感を得られることだろう。
なんだかんだで最後は二人が結ばれるというカードの偽善的な言葉のような結果にはならず、“現実”がきちんと描かれているのは評価したいところ。自分の中ではこれこそ最高のハッピーエンドだった。自分も若かりし頃に一目見ただけで“運命の女性”だと信じて、無謀とも思える戦いを挑んだことがあったのを思い出した。二人で食事をしたり、映画を見たり、ドライブしたり、旅行したりできるまで関係を膨らませることはできるけど、どうしても“友達”という一線を相手は超えさせようとはさせなかった。自分自身が大したことがないということが大きな理由だが、本作を見ると「それだけではないのかな」という気がする。『運命ではなかった』という言葉の重みが自分にはずしりと響いた。
鑑賞後、「面白かったけど、そんな運命の出会いなんてないよな」といったことを思いながら席を立とうとしたら、すぐ傍に若い女性モノの定期入れが落ちているのを発見した。「しばらく待っていたら本人が戻ってくるんじゃねえの?ひょっとしてこれが運命の出会いか」というようなことをリアルに一瞬思ったけど、面倒くさいので係員に渡して帰った。この辺りが“現実”と“映画の中の世界”が違うところ。しかし、実際の出会いはなかったけど、現実でもこういう偶然や奇跡のような出会いのようなものが溢れているのかもしれないと、ふと感じられた。“現実”と“映画の中の世界”の違いは、実際に一歩踏み出すかどうかの違いなのかもしれない。本作のラストにおいても、いったんは何のアクションもせずに面接に向かおうとするところを主人公は立ち止まっていた。一方、女性の側もいったんは誘いを断ろうとしていた。躊躇してしまうというのは実際にもよくあることであり、躊躇いながらも一歩踏み出そうとしている点は、現実に即しながらもキレイにまとめあげている。自分も一歩踏み出してもいいかなと思える非常に好感のもてるラストだった。