9.《ネタバレ》 聡史が瑞樹を追いかけて、息を切らして坂道を駆け下って行くシーンが良い。どんどん近づいてくる瑞樹に、たかがノートを貸したくらいでそんなに近づかれるいわれはないと答えると、相手はあっさり引き下がって帰って行く。それを追いかける(口元は玉木がよくやる横一文字)バックに流れるナレーション。「頭はダメだって言っていた。~一人で生きていけるって言っていた。」叔母をあんな風に失ってからの聡史がこう自分に言い聞かせて生きてきたのだと思うと、子役のかわいらしさもあって、聡史がかわいそうでたまらなくなる。シーンが現在に切り替わって、池内博之演じる「武井宏行」が「運命に逆らったんだ」というせりふも効果的だった。
過酷な運命を背負った主人公の横で勝手にしゃべりまくる女の子は「変身」にも出てくるが、「澤井瑞樹」は、聡史に叫び声を上げさせた乱暴な運転を「私の運転が、聡史の運命に勝った。」と言い、「こうやって一つ一つ勝っていこうね。二人で力を合わせて。」と言うので、その強引さが愛情に変わる。
病に倒れた瑞樹を見舞った聡史が「僕が毎日来るから、退屈はさせない。」という。“会い続ければその人は死ぬ”が、以前瑞樹は「会わなくなった人は死んじゃった人と同じなの。」と言った。会わないことはすでに彼女を死人にしていることになる。会い続けることを選択した聡史は、二人で力を合わせて運命に挑戦するのだ。
しかし、勝てない。「また閉じこもったりしないで。私が弱かっただけだから。私よりも強い人間なんていくらでも居るから。必ず居るから。」という瑞樹の最後の言葉も、聡史の「僕が彼女を巻き込んだ」という思い込みを消せない。このときの聡史は自分の喪失感で一杯で、彼女の愛には気づかない。相手の何かを知った上で力を貸す、それは愛だ。彼女の方が彼の運命を変えることに本気だった、と言えるかもしれない。
一人の人に心から愛されていたこと。それを最後に主人公は知るが、そのことで彼の運命は変わるのか? ここではその結論は示されない。聡史の前に現れる次の人もまた死ぬ、というほど世界は悪意に満ちている、か? 違うと言いたいのが人間だ。