195.《ネタバレ》 高速交通網が発達し、西部劇の時代と比較するとあの広いアメリカも随分狭くなってしまった。
しかし、久々にアメリカの広さを感じると共に、ここまでスピード感の無い映画も久々だと感じた。(あの坂道以外)
それも現代人が忙しすぎるだけで、本来の時の流れを感じたような気もします。
ほとんど何も起こりませんが、時速8キロの旅で出会う人達とアルヴィン老人との絡みの1つ1つが実にいい。
家出娘に家族とは何かを語る。口数の多い映画ではないですが、
木の枝の束ひとつで翌朝、家出娘は家に帰っていったことを見る者に伝えてくれる。
自転車で旅する若者の一行には、老いるとはどういうことなのかを語る。
鹿を跳ね飛ばした事故と、その後の鹿に囲まれる、ちょっとした笑いドコロがいい。
本作で唯一スピード感を感じた坂道とトラクターの故障と、彼を助けた中年男との交流や、
ビールでも飲みに行こうと誘ってくれた近所との老人との交流もいい。
喧嘩ばかりしている双子の修理工に兄弟とは何かを語るあの表情がたまらなくいい。
兄ライルと寒いミネソタの農場で育ったと語る焚火を囲む地元の神父との語らい。
雄弁な映画ではないですが、兄との生い立ち、若い頃の戦争体験と除隊後の酒に溺れた日々。
やがて結婚し子沢山に恵まれたが子育てに苦労した日々。年を取るとはどういうことなのかを語る今。
アメリカで生まれ、年老いていく名も無き男の一生を人々との交流を通し浮かび上がらせていく素朴な語り口が素晴らしい。
主演リチャード・ファーンズワースは本作のすぐ後にこの世を去ったそうですが、
最後にこんな素晴らしい演技を見せてくれたことに心からありがとうと言いたい。
そして出番は多くなかったけど、シシー・スペイセクは素晴らしい女優さんだと改めて感じさせてくれた作品でもありました。