124.《ネタバレ》 ニコルソン演じる小説家メルビンは売れっ子で、いつも甘ったるい恋愛小説を書いている。
彼は女がどんな言葉で喜ぶのかよくわかっているし、それを生業にしているはずなのだが、
異常な潔癖症のせいだろうか、飾った台詞を口にすることができない。
言葉で相手を喜ばせるのは、なにより簡単なこと。使いこなせば代価なしに報酬を得ることも
できてしまう。舌先三寸とはよく言ったものだ。メルビンにとってそれはビジネスの枠内に限られた
ことであり、私生活の中には一切持ち込みたくない類のものなのだ。
そんなメルビンにキャロルは「お世辞のひとつも言ってみせて」とせまった。苦悩するメルビンが
吐き出した言葉は、キャロルを褒める言葉ではなかった。メルビンの言葉は
ともすれば聞き流されてしまうほど何気ないけれど、それはその場だけで消えてしまう幻ではなく、
彼の行動を伴うリアルな言葉だった。
「時間をかけて見ていると、その人の人間性がみえてくるんだ」隣人でゲイの画家サイモンが
モデルにかけた言葉だけど、この映画が私に伝えたのは、そういうことでした。
背中にファスナーが付いてるんじゃないかと思える小犬の演技は、主演の二人を凌駕しました。