1.《ネタバレ》 自分には「アニメのドラえもんは原作漫画に敵わない」「原作大長編の存在する映画の方が、原作無しのオリジナル映画より面白い」という偏見があったのですが、前者を「恐竜2006」が、後者を本作が徹底的に打ち砕いてくれた気がしますね。
オリジナル映画としては間違いなく一、二を争う出来栄えですし、ドラ映画全体で考えても、これより上と言えるのは「恐竜2006」「新・鉄人兵団」「新・大魔境」「新・日本誕生」の四つくらいになるんじゃないでしょうか。
しかも「南極」「宝島」という傑作が二つ続いた後に、またまた凄いものを拝ませてもらった訳なのだから「映画ドラえもんは、オリジナルでも面白いものを作れるようになった」と潔く認め、脱帽する他無かったです。
本当にもう、作り手の皆さんに「参りました」「ありがとう」という言葉を送りたい気分。
小説版を読んだ際に一番の懸念となっていた「定説バッジの効果を、小さい子供でも分かるように描くのは大変じゃないか」って部分を、視覚的に分かり易く、面白く描いてクリアしている辺りなんか、特に見事でしたね。
「月世界旅行」に「キングコング」などの古典映画や「恐竜2006」「緑の巨人伝」のオマージュ描写が散見される辺りも、ニヤリとさせられるものがあって、良かったです。
他にも、教室に勢揃いしたクラスメイトの顔触れに、まさかのペロ登場など、ドラえもん好きなら嬉しくなっちゃう描写が多くて、本当に観ていて楽しい。
月世界にて、異説バッジが外れた途端に無音になる演出がゾクッとしたとか、出木杉くんとルカが話す場面が凄く特別感があって良いとか、細かい部分の「良かった探し」を始めたら、止まらなくなっちゃうくらいです。
それでも、これだけは書いておかずにはいられないという意味では、やはり気球での旅立ちの場面が挙げられます。
もう二度と帰ってこられないかも知れないという恐怖を乗り越え、友情が芽生えたエスパル達を救う為、約束の場所に皆が集まる流れだけでも感動しちゃうし、ここのジャイアンとスネ夫の描き方が、本当に素晴らしいんですよね。
スネ夫は来ないのかと諦めかけている他の面子に対し「頼む。もうちょっとだけ待ってくれ」と訴え、最後までスネ夫は来ると信じているジャイアン。
そんな信頼に応えるかのように、時間ギリギリでやって来て「前髪が決まらなくてさ」と照れ隠しを口にするスネ夫。
(あぁ、良いなぁ……こいつら、良い仲間だなぁ)って思えたし、それから(良い映画だな)って、しみじみ感じ入る事が出来ました。
月に向かって気球で旅立つという浪漫溢れる景色に、微かな寂寥感を伴ったBGMも最高で、本当に忘れ難い、特別な場面だったと思います。
じゃあ、そこが本作のクライマックスなのかというと、然に非ず。
ディアボロとの最終決戦や、ルカ達を「普通の人間」にして別れを交わす場面も、同じくらい素晴らしかったというんだから、本当に参っちゃいますね。
モゾは宇宙一硬い甲羅の持ち主、ノビットは「あべこべ」な道具を作る天才、という伏線を、ギャグシーンで笑わせつつ張っておいたのか、という驚き。
ムービットや怪獣達という「月からの援軍」で形成逆転する痛快さ。
空気砲ラストシューティングの迫力。
あえて涙は見せず「もう一度会える日が、きっと来る」と笑顔でルカと別れるのび太の、強さと優しさ。
そのどれもが心地良くて、観ていて幸せな気分に浸る事が出来ました。
一応難点というか、気になった点を挙げるなら「いつか、月へ行く事が当たり前になる、その日まで」という台詞でルカ達と別れるのは、なんていうか、勿体無い気持ちに襲われましたね。
これって、勿論良い台詞なんだけど、原作における「のび太の息子ノビスケは、新婚旅行で月に行く」って設定を知っていると「良い台詞」から「凄く良い台詞」に昇華されるんです。
つまり「のび太とルカは、再会するんだ」「何時かまた会えるという言葉は、嘘じゃなかったんだ」と分かって感動する形になっている訳で、凄く上手いんだけど、凄く勿体無い。
ここは、もうちょっと分かり易く描いて、原作を読んでいる人が受ける感動を、読んでいない人にも伝わるようにして欲しかったなぁ……って思わされました。
ちなみに、予告の映像からすると、来年は今井監督。
内容は「新・竜の騎士」か、あるいは恐竜を題材としたオリジナル映画となりそうで、これまたワクワクさせられましたね。
また一年、あれこれと想像力を働かせながら、楽しく過ごす事が出来そうです。