9.監督シルヴェスター・スタローンによる直近3作のアクションシーンは1ショットに拘ることなく、忙しないほどのモンタージュ加工によって作り上げられる。
旧作で、寝起きから生卵一気飲みまでを捉えた一連の長回しや、持続的なウェイトリフティングとプッシュアップ、歩道から美術館の階段上までを主人公のロードワークと共に駆け上がる見事なステディカム移動撮影といった、1ショットが含み持った感動は今作には見られず、ことごとく細かいアクション繋ぎによって編集されている。
主人公の生理と同調しつつ、主人公に伴走しながら階段を登りきるカメラワークの持続があってこそ観る者により高揚をもたらすはずなのだが、テーマ曲の尺とリズムを偏重した結果か、勿体ないカットの割り方と云わざるを得ない。
一見、意匠的には旧作を踏襲しているように見えながら、過度に分解された1ショットの運動の充実度は薄い。
一方で、イエスの肖像で始まる第一作に回帰し、その表象として画面を彩る個々の光は印象的だ。
スケートリンク跡地で、主人公の両肩に輝くヘッドライトは五作目で語られる「Angel」だろうか。
スタローンはジェラルディン・ヒューズの玄関先に「光あれ」と電燈をつけ、彼は逆にこの光に照らされ、エキシビション・マッチの決意を固める。
そして、最後の花道を振り返る彼を照らすスポットライトの光がひときわ美しい。